マニュアル通りでは手に負えない状況に高梨さんはある独自の心理戦略を用いたそうです。その結果、老人は意外な形で退散したといいます。

◆延々と続く説教に窓口は緊張状態
高梨さんによると、その日窓口に訪れた高齢男性は70代で、申請内容とは無関係の不満を延々と語っていたそうです。「最初は申請書を見せながら簡単に説明してくれてたんです。でもすぐに『今の若い者は…』『昔の方がよかった』と話が脱線し始めました」
男性は、手続きの内容よりも自分の価値観や時代批判に熱中しており、他の市民の待ち時間も長くなる一方でした。
「マニュアル通りに最初は話に耳を傾けていたのですが、事態は悪化するだけだと感じました」と高梨さんは言います。
周囲の同僚も「どうやって終わらせるつもりなのか…」と困惑していたそうです。
男性は、最初こそにこやかに見えたものの、次第に声のトーンは上がり、窓口全体に緊張感が漂ったといいます。
◆共感で心の壁を崩す戦略
高梨さんは状況を打開するため、まず徹底的に共感を示す戦略に出ました。「おっしゃる通りです」「私も若い者ながら大変だと思います」と、男性の感情をそのまま受け入れる言葉を返したそうです。
「最初は驚かれたようでしたね。『この若者は話をちゃんと聞いてくれる』と思ったのか、声のトーンが少し落ち着いたんです」と高梨さん。
周囲も「あれ、なんだか急に落ち着いた」と感じるほど、男性の攻撃性が弱まったといいます。
高梨さん自身は、共感によって男性の心理的防衛を解くことができたと振り返ります。「相手が自分を理解してくれていると感じると、次の段階に進める余地ができます」と話していました。
男性は少し得意げに話す場面もあったそうですが、高梨さんの共感によって信頼を得たことで、説教の勢いはやや抑えられたとのことです。

