いつまでも輝く女性に ranune
防犯カメラ、約7割が「不快でも安心」 犯人特定の"きっかけ"8年で4倍増…治安維持「必須インフラ」への複雑心理

防犯カメラ、約7割が「不快でも安心」 犯人特定の"きっかけ"8年で4倍増…治安維持「必須インフラ」への複雑心理

近年、街頭や公共・商業施設、個人宅に至るまで、防犯カメラの設置が急速に進んでいる。もはや犯罪抑止と捜査の強力なツールとして欠かせない存在といえる。

意識調査でも鮮明な防犯カメラの浸透ぶり

ALSOKが今年7月、日本在住の20代~70代以上の男女600人を対象に実施した「第3回 防犯カメラに関する意識調査」によると、回答者の78.0%が普段の生活の中で「防犯カメラを見ることがある」と回答。「あまり見ない」(29.3%)も含まれているが、8割近くがその存在を認識しているという結果は驚異的だろう。

意識調査わかった防犯カメラへの安心感(アルソック提供資料)

実際に1日外出すれば、目にしないことが珍しいほど浸透している防犯カメラだが、国民の意識はポジティブだ。

82.2%が防犯カメラが設置されていることで「安心」と回答し、その理由として「犯罪の抑止になると思うから」(74.0%)としている。

続くのも「事件の早期解決につながると思うから」(53.8%)で、調査からは治安維持のインフラ設備として、防犯カメラへの大きな信頼がうかがえる。

一方で、15.0%は防犯カメラを「不快」だと回答。それでも、そのうちの67.4%は同時に「安心感」を抱いており、その存在を嫌悪しつつも、なければ不安という複雑な感情がにじむ。

最新の防犯カメラ事情

では、現実に防犯カメラは犯罪捜査にどれだけ貢献しているのか。

『令和7年(2025年)警察白書』によると、警察の検挙件数のうち、主たる被疑者を特定した警察活動が「防犯カメラ画像等」だった割合は増加傾向にあり、2024年におけるこの割合は17.6%に上る。これは2016年(4.6%)比で4倍近い数字となり、犯罪捜査における、防犯カメラの重要性が年々高まっていることを明確に示している。

背景には、防犯カメラの進化がある。警察にとって、防犯カメラ画像は、犯罪の悪質化・巧妙化に対応するうえで重要な証拠となりうるため、最新技術を惜しみなく投入しているのだ。

具体的には次のような場面で活用されている。

  • 高度な画像解析技術の活用
    録画装置の性能や撮影条件によって画像が不鮮明な場合でも、画像を鮮明化するための技術開発を進め、犯人の特定や追跡に役立てている。
技術向上でここまで画像をクリアに(出典:令和7年警察白書)
  • 自転車画像解析と車種推定
    防犯カメラ等に映り込んだ被疑者の自転車について、部品の特徴やカスタム状況から車種を特定し、犯行に使用された自転車を推定する「自転車画像解析」という捜査手法を採用。また、犯行に使用された自動車のパーツの特徴から車種や型式を推定する分析手法も全国警察で広く活用されている。

  • ドライブレコーダー(ドラレコ)の活用
    固定された防犯カメラが設置されていない場所であっても、通行車両のドライブレコーダーの画像を収集・解析することで、被疑者の特定に活用されている。

以上に加え、いまや誰もがスマホを保有しており、「監視の目」はいたるところに張り巡らされている。もはや被疑者が強靭な捜査網をくぐりぬけ、逃げ切るのは容易でなくなりつつある。

防犯カメラの設置状況

前出ALSOKの調査では、集合住宅に最初から設置されている場合を含めると、およそ4人に1人(26.8%)が自宅の外壁に防犯カメラを設置していることが分かっている。設置理由は「何かあったときの証拠にするため」(34.8%)が最多で、「被害を未然に防ぐため」(25.5%)と続く。

東京都は、住民の体感治安の悪化や防犯意識の高まりを受け、区市町村を通じて個人宅向け防犯機器等の購入助成(上限2万円/世帯)を実施するなど、設置を支援。自治体も普及を後押ししている。

また、昨今は、電車内も防犯カメラ設置が珍しくなくなっている。

電車内の防犯カメラもかなり浸透してきた(tarousite / PIXTA)※写真はイメージ

鉄道では2015年、2018年の東海道新幹線や、2021年の東京における在来線での傷害事件を受け、国土交通省が省令を改正(2023年)。これにより、新しく製造される新幹線車両および東京・名古屋・大阪の三大都市圏を中心とする輸送密度の高い在来線車両には、防犯カメラの設置が必須となった。

警察自体も、街頭・公共施設などに2210台の街頭防犯カメラを設置(2025年3月末現在)しており、民間事業者等による設置・運用も支援。犯罪捜査における検挙率向上に力を入れている。

刑事事件における証拠の考え方

気になるのは防犯カメラによる撮影画像の証拠としての価値の高さがどれほど認められるかだろう。刑事事件において、証拠は「直接証拠」と「間接証拠(状況証拠)」に区別される。

  • 直接証拠
    犯罪事実そのものを直接証明する証拠。具体的には、被疑者自身の自白、目撃者の証言、あるいは犯行状況が映っている映像などが該当する。
  • 間接証拠
    犯罪事実を推認させる証拠。例えば、犯行現場で採取された被疑者の指紋やDNA、経済的に困窮していたという周囲の供述、または盗品の売却履歴などが該当する。

逮捕の根拠となるのは、法律で規定されている「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」がある場合だ。一般に、直接証拠が一つでもあれば、容疑は濃厚となり逮捕の可能性が高まる。直接証拠がない場合でも、複数の間接証拠を積み上げることで逮捕に至るケースもある。

防犯カメラの映像の証拠価値が低いケースは?

たとえば、防犯カメラで検挙につながりそうな映像をおさえたとしよう。これで「万事OK」かといえば、そうとは限らない。その内容によって証拠としての価値は大きく異なる。

(1)決定的な直接証拠となる場合
もし防犯カメラの映像に被疑者による犯行の場面そのものが映っていた場合、それは決定的な直接証拠となり、逮捕される可能性は非常に高くなる。

(2)有力な間接証拠となる場合
映像に、犯行と近接した時間や場所で、被疑者が凶器や盗品を所持している様子が映っている場合や、目撃証言と一致する被疑者の容姿や特徴が確認できる場合は、犯人であることを推認させる有力な間接証拠と評価される。

(3)証拠能力が低い場合
被疑者が単に現場付近を通行しているだけの映像の場合、その映像だけで犯罪を行ったとは限らないため、その映像のみで逮捕されることは考えにくい。

ただし、防犯カメラの映像が単独で犯罪を証明する証拠にならないとしても、犯人特定の資料となり、そこから捜査が進展して逮捕につながる可能性はある。警察の捜査は「密行性」が重視されるため、被疑者が気づかないうちに捜査が進み、ある日突然逮捕に至るケースも珍しくないからだ。

10月末、愛知県で26年にわたり未解決だった殺人事件が急転、被疑者の逮捕に至った。現場検証できるようにと、総額2000万円超の家賃を払い続けた被害者の配偶者の執念が実を結んだ側面も大きいといえるが、結果的に犯人の似顔絵があまり似ていなかったことなどが、被疑者の特定を遅らせたとの指摘もある。

もしも昨今のレベルで防犯カメラが浸透していればどうなっていたのか…。どこにでも設置されていることを「監視の目」と捉えれば息苦しいが、万が一を考えればやはり、頼りになる「安心の目」であることは疑う余地はないだろう。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ