
「買い物依存症」とは、買い物という行為そのものに心を奪われ、コントロールできなくなる状態です。買った瞬間の高揚感だけが目的となり、手に入れた物には興味を失う。そして、すぐに次の買い物のことで頭がいっぱいになり、後悔と衝動買いを繰り返す……。買い物依存は、アルコールやギャンブルと同じように人生を破壊しかねない問題でありながら、見過ごされがちな恐ろしさがあることにまだ多くの人は気がついていないようです。
氷河期世代の苦悩と、エリート夫との出会い
ナナミさん(仮名)は、大学卒業後、希望する企業への正社員就職は叶わず、フリーターとしてアルバイトを転々とする不安定な20代を過ごしました。「自分だけが社会から取り残されているような感覚」と、ナナミさんは当時を振り返ります。
そんな彼女の人生が大きく変わったのは、30歳を目前にしたころ。友人の紹介で出会ったのが、2つ年上の商社マン、シュンヤさん(仮名)でした。年収1,500万円を超えるエリートのうえ、誠実な人柄。ナナミさんは、シュンヤさんと出会えたことを「奇跡」だと感じました。
交際は順調に進み、ナナミさんが30歳のときに結婚。ナナミさんは仕事を辞め、専業主婦となりました。「これで、もうお金の心配をしなくていいんだ」長年の不安から解放された安堵感と、今後の生活への期待で、ナナミさんの心は満たされていました。
新築、高級車…満たされる物欲と、心の“隙間”
結婚後、シュンヤさんは都心に8,200万円の新築戸建てを購入。ナナミさんはインテリアを選び、最新の家電を揃え、理想の家庭を築くことに夢中になりました。シュンヤさんは仕事が多忙でしたが、優しい夫であり、ナナミさんの望むものはほとんど買ってくれました。
「本当に幸せでした。欲しかったものがなんでも手に入る。まるで夢のようでした」
しかし、いつしかナナミさんの買い物はエスカレートしていきます。最初は、素敵な食器や雑貨を集めるに留まっていましたが、次第にブランド物のバッグや洋服へ。限定品や新作が出るたびに手を出してしまうのです。ブランド物だけでなく、テレビや雑誌でみた便利グッズなど、一つひとつの価格は小さなものでも、欲しいと一度思うとその衝動を抑えられず、気づけば部屋は開封すらしていない箱で溢れかえっていきます。
「買う瞬間だけが、すごく満たされるんです。でも、手に入れた途端に興味がなくなって、また次のものが欲しくなる。買ったあとはいつも、『またやってしまった』って自己嫌悪に陥るのに、やめられない……」
ナナミさんは、心のどこかで虚しさを感じていました。シュンヤさんは多忙で、家にはほとんど寝に帰るだけ。息子(当時14歳)も思春期を迎え、会話は減っていました。
「お金はある。物もある。でも、なにかが足りない」その“心の隙間”を埋めるように、ナナミさんは買い物を繰り返していったのです。
発覚した「隠れ借金」と、夫の“最後通告”
転機が訪れたのは、ナナミさんが42歳のとき。シュンヤさんが、クレジットカード会社からの分厚い請求書の束を発見したのです。そこには、ナナミさんが内緒でリボ払いや分割払いを繰り返し、数百万円に膨れ上がった借金の詳細が記されていました。
「どういうことだ! 説明しろよ!」
シュンヤさんの激しい剣幕に、ナナミさんはすべてを告白するしかありませんでした。買い物への衝動が抑えられないこと、買ったあとの罪悪感、そして借金の総額……。
涙ながらに謝るナナミさんに対し、シュンヤさんの反応は冷たいものでした。
「俺が稼いだ金をなんだと思っているんだ」
シュンヤさんは、すぐさまナナミさんのクレジットカードを取り上げ、毎月のお小遣いを厳しく管理するようになりました。しかし、ナナミさんの買い物衝動は収まりません。今度は、夫に隠れて消費者金融に手を出し、新たな借金を作ってしまうのです。それが再びシュンヤさんに発覚したとき、彼は静かに、しかしきっぱりと告げました。
「もう、君とは一緒に暮らせない。離婚しよう」
離婚調停、義父母の介入、そして親権喪失
離婚の話し合いの場には、シュンヤさんの両親も姿を現しました。「息子の大切な財産を使い込んだ」「母親失格だ」と、ナナミさんを激しく非難します。
そして、最終的に下された判断は、ナナミさんにとって最も過酷なものでした。離婚は成立。さらに、「経済観念がなく、子育てに適さない」として、息子の親権は夫であるシュンヤさんが持つことになったのです。
「あの子まで取り上げられるなんて……」ナナミさんは、法廷で泣き崩れました。
