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ボランティアダイバーと地域の力が生み出す持続可能な海洋環境

サンゴを守ることで海の恵みを未来へつなぐ

――サンゴが置かれている現状について教えてください。

彦坂:近年の気候変動の影響で、日本近海も亜熱帯化が進み、熱帯魚の姿が増える一方で、サンゴにとっては厳しい環境が続いています。

世界各地では、海水温の上昇の影響で、モルディブやグレートバリアリーフのサンゴが大規模に白化(※)し、死滅する事例も起きました。沖縄や石垣でも白化現象が見られ、仮死状態になっているサンゴが多くなってきました。

  • サンゴの「白化」とは、環境ストレスによってサンゴの生育に不可欠な共生藻類である「褐虫藻(かっちゅうそう)」が失われ、サンゴの白い骨格が透けて見える現象。白化した状態が続くと、サンゴは共生藻からの光合成生産物を受け取ることができず、壊滅してしまう
水中の白化したサンゴ
白化したサンゴ

彦坂:日本全体では、環境によってサンゴが減少する場所もあれば、逆に増えている場所もあります。ただ、せっかく成長したサンゴも台風や波の影響で折れてしまうことで、そのまま死滅してしまうことがあるんです。

そこで私たちは、折れたサンゴを再び海底に固定し、再生につなげる活動を行っています。サンゴ礁は「海の森」ともいえる存在で、多くの生物の生息を支えています。その大切さを理解してもらうことも、活動の大きな目的の一つです。

海底に設置された枠に取り付けられたサンゴ
海底に設置された枠に取り付けられたサンゴ。画像提供:NPO法人海未来
海底に設置された枠に取り付けられたサンゴが成長している様子
取り付けられたサンゴが成長している様子。画像提供:NPO法人海未来

――「海未来」が行っているサンゴの再生活動について詳しく教えてください。

彦坂:活動拠点である和歌山県の串本沿岸地域は、北緯33度30分という北にありながら、亜熱帯性の生物群集が豊富に見られる貴重な場所であることから、ラムサール条約(※)にも登録されています。

この地域には120種以上のサンゴが生息しており、それらを守るために私たちが行っているのは「修復」に近い作業。折れてしまったサンゴをワイヤーで固定し、死滅を防ぎながら定着を促します。

関西大学の研究チームが行う、サンゴの成長促進技術の研究にも協力しています。水力発電による微弱電流を流すことでサンゴの成長を促す再生手法で、こうした取り組みはインドネシアやモルディブでも行われており、串本でも簡易的な形で導入しています。

サンゴの再生活動は私たち「海未来」にとって水中清掃と並ぶ、生物多様性を守るための「もう一つの(活動の)柱」です。ごみを取り除くことと同時に、魚が住みやすい水中環境を整えることが、豊かな海を未来へつなぐために欠かせない取り組みだと考えています。

  • 「ラムサール条約」とは、1971年2月2日にイランのラムサールという都市で開催された国際会議で採択された、湿地に関する条約。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」
海底に折れたサンゴの破片を金属板に固定した様子
折れたサンゴの破片を金属板に固定した様子。画像提供:NPO法人海未来
海底に微弱電波への接続の有無で分けて設置し、成長を比較できるようにしている
微弱電波への接続の有無で分けて設置し、成長を比較できるようにしている。画像提供:NPO法人海未来

――サンゴが減少して生態系が変化すると、海や私たちの生活にはどのような影響があると考えられますか。

彦坂:サンゴ礁の分布は、海全体の中で0.2パーセントにも満たないごく一部です。しかし、その限られた場所に海の生物全体の約4分の1が依存していると言われています。

サンゴ礁はプランクトンを育む場であり、また小さな魚の隠れ家として命を守る役割も担っています。サンゴ礁で小魚が育ち、その小魚を餌に少し大きな魚がやってくる。このような食物連鎖の基盤にサンゴが存在しているのです。

サンゴが失われれば、まずそこに生息していた小さな魚が姿を消します。するとそれを餌にしていた魚が生きていけなくなる。多様な生き物の隠れ場所を奪うことになり、生態系全体が崩れていくでしょう。

つまり、サンゴを守ることは海の生物多様性を守ることであり、私たちの生活に直結する海の恵みを未来へつなぐことでもあります。

「海未来」の活動をモデルに全国の海で活動が広がってほしい

――美しい海を守る活動を広げていく上で、どのような体制づくりや支援が必要だと考えていますか。

彦坂:私たちの活動の規模を拡大するよりも、各地で参加できる仲間を増やしていくことが重要だと考えています。

私たちは年間30回以上の清掃活動を行っていますが、実施できるのはダイバーが集まりやすい週末に限られるため、スケジュールはすぐに埋まってしまいます。1つの団体だけで、これを全国規模に広げることは現実的に困難です。

だからこそ、「自分たちの地域は自分たちで守る」という動きを広げていく必要があります。実際、高知県や三重県、鹿児島県など、全国各地のダイビングショップから、「自分たちの海でも同様の活動をしたい」という声が上がり始めているんです。

私たちの活動がそのモデルケースとなり、活動が広がっていくことが理想ですね。そのためには広報を強化し、活動を知ってもらうこと、そして新たに活動を始める地域への初期費用の支援など、資金面でのサポートも課題になってきます。

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