3. 臨床工学技士の仕事内容
臨床工学技士が扱う医療機器は、心臓や肺、腎臓、肝臓といった生命維持のために不可欠な器官の働きを代替したり補助したりすることから、臨床工学技士は「命のエンジニア」とも呼ばれます。配属によって異なりますが、臨床工学技士は主に次のような業務を担います。
血液浄化業務
透析・ろ過・吸着・分離などの方法で血液中の老廃物や毒素を取り除いたり、水分量や電解質を調整したりします。血液浄化の中で最も一般的なのが、慢性腎不全など腎機能が低下した患者さんに対しておこなわれる人工透析(血液透析)です。
臨床工学技士は透析装置(ダイアライザー)のセットアップからシャントへの穿刺、治療中の観察、返血、抜針、止血に至るまで一連の業務に携わります。人工透析は週3回、1回3〜5時間を要します。緊張や不安を抱えている患者さんの気持ちに寄り添いながら治療を進めることも、臨床工学技士の役目です。
心血管カテーテル業務
脚の付け根や腕からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、冠動脈の狭窄・閉塞箇所を確認したりバルーンを使って拡張したりします。カテーテルを用いた検査・治療は、開腹の必要がなく患者さんの身体的負担が少ない方法として広く実施されています。
実際に検査・治療をおこなうのは医師ですが、臨床工学技士はその間ポリグラフを使用して心電図や血圧などの生体情報をモニタリングします。ほかにもFFR(冠血流予備量比)の測定や、血管内画像診断装置(IVUS、OFDI等)、高速回転アテレクトミー(Rotablator™)、緊急用の除細動器や体外式ペースメーカー、補助循環装置(IABP、ECMO等)などの準備や操作を担当します。
アブレーション業務
アブレーション(経皮的心筋焼灼術)は脈が速くなるタイプの不整脈(頻脈性不整脈)に対して用いられる治療法で、脚の付け根からカテーテルを挿入し、その先端から不整脈を引き起こしている部位に電流を流すことで伝導路を焼灼します。臨床工学技士は、ポリグラフを用いて心内心電図をモニタリングしたり、3Dマッピング装置を操作したりすることで医師をサポートします。
植え込みデバイス業務
脈が遅くなるタイプの不整脈(徐脈性不整脈)に対しては、ペースメーカー(PM)や植え込み型除細動器(ICD)などのCIEDs(心臓植え込み型電気的デバイス)を用いた治療がおこなわれます。臨床工学技士はCIEDsの植え込み手術に立ち会い、医師の指示に従って機器の設定を調整したり患者さんに渡すペースメーカー手帳に必要事項を記載したりします。手術後も外来や遠隔で稼働状況を定期的にチェックします。
人工呼吸器業務
呼吸不全に陥った患者さんには人工呼吸器を導入し、血中の酸素・二酸化炭素濃度を適切に保ちます。臨床工学技士は機器が安全に使用できるよう日常点検や定期点検(部品交換)、使用前点検(組み立て、設定)を担当し、一日数回、病棟や集中治療室をラウンドして機器が適切に稼働しているか確認します。呼吸療法サポートチーム(RST)に参加し、多職種と連携して治療方針を話し合うこともあります。
人工心肺業務
心臓や心臓付近の大動脈の手術時には、心臓や肺の機能を一時的に止める必要があります。その間に心臓や肺の代わりになるのが人工心肺装置(体外循環装置)です。臨床工学技士は人工心肺装置やその周辺機器の点検や準備、操作、記録を担当します。外科医・麻酔医・看護師との緊密な連携が求められる業務です。
内視鏡業務
先端に超小型カメラを取り付けた細い管を口や鼻、肛門から挿入し、胃・十二指腸・大腸の検査や治療をおこないます。胃がんや大腸がんの早期発見に有効で、進行度によってはそのまま病変部位を切除することも可能です。臨床工学技士は内視鏡およびその周辺機器、生体情報モニタ、洗浄器の保守や点検、診療の補助をおこないます。使用後のスコープの洗浄も重要な仕事の一つです。
高気圧酸素業務
高気圧酸素治療装置を使用し、通常より高い気圧下で高濃度の酸素を吸入する治療法です。全身の酸素不足を解消することで、一酸化炭素中毒や急性末梢血管障害、難治性創傷、突発性難聴、脳梗塞、腸閉塞、減圧症、感染症などに効果が期待されます。臨床工学技士は高気圧酸素治療装置の操作と保守・点検をおこなうほか、治療に付き添い患者さんに異変がないか観察します。
手術室業務
手術室では人工心肺装置や生体情報モニタ、麻酔器、内視鏡、顕微鏡、電気メスなど、大小さまざまな医療機器が使われています。臨床工学技士はこれらの医療機器やそれに付随する材料の準備や点検を担当します。手術中は医療機器が正常に動いているかモニタリング、トラブルが起こればすぐに対応するなどして、手術を安全に円滑に進められるよう支援します。
集中治療室業務
集中治療室(ICU)では、急性期疾患で症状が重篤な患者さんや脳や心臓の手術を受けたあとの患者さんが24時間体制で治療を受けています。容態が安定しないため、血液浄化装置、補助循環装置、人工呼吸器などによる生命維持が不可欠です。臨床工学技士はこれらの機器の操作と保守・点検を担います。機器トラブルは患者さんの生命に関わるため、臨床工学技士も交代で24時間常駐します。
医療機器管理業務
病院では生体情報モニタや輸液ポンプ、シリンジポンプ、人工呼吸器などを医療機器管理室などでまとめて管理しています。臨床工学技士はこれらの医療機器をいつでも安全に使用できるよう点検し、院内各所に貸し出しています。機器に不具合があれば修理などの対応をおこないます。また勉強会や研修を通じて、看護師などほかの医療スタッフに機器の正しい使い方を教えることもあります。
tips|臨床工学技士の業務範囲が拡大
これまで注射や点滴など侵襲性の高い医行為ができるのは基本的に医師や看護師のみで、臨床工学技士については血液浄化業務におけるシャントへの穿刺に限り実施が認められていました。
しかし、法改正により2021年10月から臨床工学技士の業務範囲が拡大され、血液浄化業務においては動脈表在化や静脈にも穿刺ができるようになりました。
ほかにも、生命維持管理装置使用時における静脈路の確保や、心・血管カテーテル治療時における電気的負荷スイッチの押下などが可能になったことで、より自律的に業務が進められるようになりました。ただし、実際にこれらの業務に従事するには所定の研修を修了する必要があります。
4. 臨床工学技士の勤務先
日本臨床工学技士会の調査によると、ほとんどの臨床工学技士が医療機関に勤務しています。数は少ないですが、そのほかにも学校(養成校)や医療機器メーカーで活躍する技士もいるようです。

病院
同調査によると、臨床工学技士が勤務する医療機関の約8割が病院となっています。臨床工学技士による管理が必要な高度な医療機器は主に病院にあるため、これらの機器が24時間365日問題なく稼働するよう、臨床工学技士はなくてはならない存在です。「3. 臨床工学技士の仕事内容」で紹介したような幅広い業務に携われることが病院で働くメリットですが、緊急手術や医療機器のトラブルに対応するため、夜勤や当直、オンコールが必要になります。
診療所
臨床工学技士が勤務する医療機関の約1割が診療所となります。診療所における臨床工学技士の主な仕事は血液透析業務です。そのため勤務先は腎臓内科や泌尿器科などの診療所、または、透析を専門におこなう透析クリニックが中心となります。有床の診療所(専門病院)の場合は病院と同じく当直やオンコールがあります。無床の診療所でも夜間透析をおこなっている場合には、シフトで夜間帯の勤務が発生することがあります。
学校や医療機器メーカーなど
臨床工学技士の学校(養成校)で講師として人材育成に携わる人や、医療機器メーカーで開発や営業をする人もいます。ほかにも、厚生労働省管轄の独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)で医療機器を安全に使用するための環境整備に尽力する人、医療関係の研究機関で研究をおこなう人もいます。

