いつまでも輝く女性に ranune
庭で家庭菜園、大理石キッチン、ヒノキ風呂…退職金2,000万円で“郊外”に理想の終の棲家を手に入れた「年金22万円・60代夫婦」。1年後、遊びにきた娘も思わず首を傾げる「あまりに異様な生活実態」【FPが解説】

庭で家庭菜園、大理石キッチン、ヒノキ風呂…退職金2,000万円で“郊外”に理想の終の棲家を手に入れた「年金22万円・60代夫婦」。1年後、遊びにきた娘も思わず首を傾げる「あまりに異様な生活実態」【FPが解説】

都会の喧騒を離れ、退職金で手に入れた憧れを詰め込んだ“終の棲家”。しかし、その理想の家が数年後、ストレスの源に変わってしまうことも……。本記事では、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が、村上さん夫婦(仮名)の事例とともに、老後の地方移住における理想と現実のギャップについて解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

理想の「終の棲家」を手にしたはずが…

「みてよ、このキッチン。天板は大理石でね、収納だってたっぷりあるのよ」

北関東のとある町。木々に囲まれた平屋で、村上聡さん(仮名/68歳)と妻の智恵子さん(同/65歳)は第二の人生をスタートさせていました。

東京都内の企業に勤めていた聡さんは、退職金2,000万円を元手に、土地付きの中古住宅を購入。都心のマンションを売却した資金でリフォームし、キッチンや浴槽、庭造りにも徹底的にこだわりました。

「都会の狭いマンション暮らしから解放されたね」

「自然に囲まれて、まるで別世界だわ」

当初、夫婦は笑顔でした。友人にみせる写真の中では、広い庭での家庭菜園やガーデニング、薪ストーブの炎が暮らしを彩っていました。

しかし、1年後。子どもの受験が終わり、久しぶりに遊びに来た娘が玄関を開けた瞬間、思わず眉をひそめました。

「……お母さん、この部屋、湿気すごくない? なんかカビ臭いよ」

「そう? 最近ちょっと風通しが悪いのよ。梅雨だからかしらね」

リビングの窓辺には、結露で黒ずんだ壁紙。ヒノキ風呂も、使わない日はカビが生えやすく、掃除が追いつかないと、智恵子さんはいいました。

さらに、聡さんは高血圧が悪化し、車の運転を控えているとのこと。最寄りのスーパーまでは片道2km。バスは1時間に1本。買い物も通院も、すべてタクシー頼みになっています。

「ねえ、こんな不便なところで、2人だけで大丈夫なの?」

娘の言葉に、夫婦は顔をみあわせて沈黙しました。

移住者が陥る「理想と現実」のギャップ

政府の地方創生関連資料(日本版CCRC構想を巡る状況)では、東京都在住の50代・60代の世代のなかに「地方に移住したい」と考える人が一定数存在すると報告されています。特に、60代では「地方への移住意向がある」と答える人が3割程度にのぼるのです。背景には、都心の物価高や老後のゆとり志向があると考えられます。

しかし、実際に地方へ移住した人のうち、およそ3割が「想定より生活費が高くついた」と回答している(内閣府『高齢者の地域生活に関する調査』2023)ことも見逃せません。

村上夫妻の家計も例外ではありませんでした。年金は夫婦合わせて月22万円ですが、光熱費と車の維持費、医療費でほとんどが消えるため、住宅購入から残った貯蓄を取り崩す月も。

「家庭菜園で食費を抑えよう」と始めた畑は、夏の猛暑でほとんど枯れてしまい、逆に水道代が膨らみました。

「もう少し便利な場所にすればよかったんじゃないの?」娘がいうと、智恵子さんは小さく首を縦に振りました。

「ここに来る前はね、住宅展示場や雑誌をみて、『田舎暮らしって素敵』って思ってたの。でも現実は、草むしりも重労働。お風呂の手入れだって毎日やらなきゃいけないし、ある意味仕事みたいなものよ」

彼女の言葉は、多くの移住者が抱える現実そのものです。地方の戸建ては維持費がかかります。屋根の塗装や給湯器の交換など、10年単位で数十万円単位の出費が必要です。都市部のマンションのように、管理会社が一括で対応してくれるわけではありません。

さらに、高齢者の「移住孤立」も増えています。総務省の調査では、地方移住者のうち65歳以上の約4割が「近隣住民との交流が少ない」と回答。介護が必要になった際、支援体制が脆弱な地域も少なくありません。

移住を「第二の人生」と期待するあまり、「老後インフラ」を軽視してしまうことが、後悔を生む大きな要因なのです。

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