
日本は世界で一番多くのアメリカ国債を保有する国であるため、超大国の動向をきちんと追うことが重要になります。アメリカ国債は世界で最も安全な資産の一つとして考えられていますが、金保有に乗り換えられる可能性も囁かれているなど、その地位は揺らぎ始めています。その渦中で、トランプ政権がアメリカ国債の購入に30%課税を検討し、ドル安を推進しようとする意図はどこにあるのでしょうか。本記事では、中林美恵子氏の著書『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)より、日本人が資産防衛をするうえで知識としてプラスとなる「アメリカの今」について解説します。
拡大するアメリカの貿易赤字とドル高
「トランプ関税」によって、貿易赤字の解消を目指すアメリカですが、その実態を数値で見てみましょう。2024年のアメリカの貿易は、輸出(財・サービス)が3兆1906億ドル(前年比+3.9%)、輸入は4兆1084億ドル(同+6.5%)でした。輸出入の差額である貿易赤字額は9178億ドル。2022年に次ぐ高水準となっています(図表1)。
[図表1]アメリカの貿易収支
一国の貿易収支が「赤字」になるのか「黒字」になるかの一つの要因は「為替レート」にあります。たとえば、日米の為替レートで、「円高」になると輸出に対して不利に働き、「円安」になると有利に働きます。
わかりやすくするために、1ドル=100円(円高)と、1ドル=200円(円安)のケースで比較しましょう。仮に、200万円の日本車を輸出すると、1ドル100円の時にはアメリカで2万ドルですが、1ドル200円(円安)の時には1万ドルになります。円安の時にはアメリカの消費者はより安く日本車を買うことができるということです。そうすると、アメリカ市場で日本車が多く売れるので、日本は「輸出」が増え、アメリカは「輸入」が増えるのです。
[図表2]米ドル対円相場
円ドルレートの推移を示している図を見ても、為替レートは常に変動していますが、2021年から急激に「円安」(つまり「ドル高」)に動いていることがわかります。なぜドル高になったのでしょうか。ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長によれば、それは、基軸通貨である米ドルに対する需要が多いからだということになります。ただし、ドル高の原因については様々な意見があり、ミラン氏の意見がかならずしも正しいとは限らないということを付け加えておきます。
「アメリカ国債→金」という安全資産乗り換えの可能性
アメリカはもう一つの赤字も抱えています。財政赤字です。2024年度は1兆8330億ドル(GDP比6.7%)に達しています。財政赤字とは、連邦政府の歳入よりも歳出のほうが多いことを意味します。債務の利払い費の増加や、社会保障、医療、軍事費などの支出増大が歳出増の主な原因です。
財政赤字を補填するために政府は国債を発行します。政府が発行する国債は金融機関などが購入し、市場で売買されます。「国債」とは、期限付きの政府の借金であり、たとえば10年後に金利を付けて買い戻すという約束で発行されます。
政府が期限までに国債を買い戻すことができなければ、債務不履行(デフォルト)が発生して、国が破綻します。2001年にはアルゼンチンが債務不履行を起こし、2010年代にはギリシャが債務危機に陥りEUからの離脱危機が起きました。2020年にはスリランカが債務不履行で経済危機に陥っています。
アメリカの国債は、債務不履行に陥る心配はほぼありません。米ドルが基軸通貨であること、そしてアメリカは言うまでもなく世界一の「大国」だからです。したがって、アメリカ国債は世界で最も安全な資産の一つと考えられています。
ところが、最近、不思議な事態が起きています。2024年1月以降、金の価格が急騰しているのです。金は世界で最も安全な資産といわれています。その金の価格が上がるということは、端的に言えば、アメリカ国債が売られて、金保有に乗り換えられている可能性を意味しています。
[図表3]金価格の推移
