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物価上昇が〈実態よりも苦しく〉感じられる理由。日米のデータで示す“統計の妙”…「体感」指標にトランプ政権も熱視線

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拡大する財政赤字・旺盛な購買意欲

一般的に、財政赤字を補うために国債を発行しますが、その国債を民間が買い上げることになると、その分だけ民間の投資が減少します。つまり、財政赤字が民間の富や財力を吸収してしまうということになります。これを「クラウディングアウト」と呼び、経済活動にとっては好ましくないとされることがあります。

ただ、中央銀行がお金を印刷して、それで国債を買い上げるのであれば、話は多少違ってきます。これをもう少し正確に言うと、中央銀行が量的緩和政策として国債を買い上げる場合、結果的に市場に資金が供給され、景気刺激につながることもあるのです。

また、アメリカの場合は、対米貿易で膨大な黒字を出している国が、為替安定や外貨準備の目的でアメリカ国債に投資する場合が非常に多いので、話はさらに複雑になります。アメリカが財政赤字のために発行した国債を、貿易赤字相手国の外国が購入するという構図にしてしまっているわけです。アメリカの財政「赤字」の結果、外国からお金を「借りる」ことになっている傾向が強いのです。
 

[図表2]アメリカの個人消費支出


アメリカの貿易赤字の要因の一つは、旺盛な消費意欲にあり、個人消費は右肩上がりに伸びています(図表2)。人々の購買意欲は極めて高く、極論すれば、欲しいものは借金してでも買うという状況です。

たとえば住居一つをとっても、全館冷暖房完備で、夏も冬も冷暖房つけっぱなしの快適な暮らしが当たり前になっています。貯蓄と投資の関係でいえば、本来であれば、個人が銀行に預金し、そのお金を銀行が企業に貸し出して、企業が成長して経済が回っていくというのが望ましい姿だといわれています。

過去70年間のアメリカの平均個人貯蓄率を見ると、平均約8.4%ですが、2020年4月には、コロナ禍による給付金支給や外出制限で、過去最高の32%に達しました。しかしその後、2022年9月には2.4%まで低下しています。
 

[図表3]アメリカの個人所得・可処分所得・消費支出


要するに、アメリカ人は貯蓄以上に購買意欲が旺盛だということです。それは、消費者にとってはハッピーな状態だともいえますが、国レベルでみると、膨大な貿易赤字を生み出し、諸外国は膨大な貿易黒字を利用してアメリカ国債を買っているという状況になっていくのです。諸外国はアメリカ人の消費者の購買意欲に頼って安くて品質のいい商品の輸出を伸ばします。そして膨れ上がったアメリカの貿易赤字は、ついにはトランプ大統領の「相互関税」の誘因になってしまった可能性があるのです。


中林 美恵子
政治学者
早稲田大学教授
公益財団法人東京財団理事長

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