
高所得者ほど税率が高くなる累進課税が採用されている日本では、所得が上がるほど損をしている感覚に陥っている人もいるでしょう。一方、アメリカでは「お金がお金を生み出す」社会構造のため、富裕層がより豊かになる傾向があります。一代にして巨万の富を得る「アメリカン・ドリーム」という言葉もあるほどです。しかし、こうした富裕層を優遇する不十分な再分配政策が貧富の差を拡大させているのも、アメリカの実情といえます。本記事では、中林美恵子氏の著書『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)より、アメリカの税制の実態を紹介します。
産業構造の高度化に取り残されたアメリカの労働者
今のアメリカ社会には、様々な要因によって歪みが生じています。たとえば、製造業の衰退による歪みです。かつてアメリカの製造業は、冷蔵庫やテレビなどの電化製品や、自動車などを世界に送り出してきました。しかし現在では、コストを削減するために、電化製品の製造工程の一部を、国内ではなくメキシコや中国などに移しています。
また、新興国の技術や品質の向上もあって、多くの製品を輸入に頼っている側面もあります。さらに、自動車産業においては、外国企業との競争で苦戦しています。その結果、これらに関わる労働者は職を失い、生活苦にあえいでいるのです。
今より製造業が盛んだった当時のアメリカを知る人々の不満は大きく、この点も、2024年の大統領選挙でのトランプ大統領の勝利につながったといえるでしょう。製造業は仕事場と家族をつなぐ基盤だったのです。
経済の発展とともに産業構造は高度化していきます。製造業や鉱業(第二次産業)は、サービス業(第三次産業)にとって代わられます。産業が高度化した経済では利益率は高く、製造業や鉱業で働くスキルドワーカー(熟練労働者)への需要は減少します。
そこで、本来であれば、必要なことは「リスキリング」です。「リスキリング」とは、新しい職業や職場に必要なスキルを獲得するために行う再教育を意味します。そして、熟練労働者を第三次産業にシフトさせるのです。
アメリカには「終身雇用制」はほぼありません。したがって、その気になればいくらでも転職できるのです。しかし、それが思うようにいかない理由の一つに、「移動」の問題があります。
たとえば、製造業や鉱業は「ラストベルト」(錆びた工業地帯)に集中しています。ラストベルトとは、鉄鋼や自動車などの重工業で一時栄えたものの、20世紀後半に衰退した工業地帯を指す通称です。
地理的には、アメリカ中西部から北東部に位置しています。石炭などの資源に恵まれ、運輸に便利だったこともあって自動車産業や鉄鋼産業が集積し、1960年代頃まではアメリカ経済の中心でした。一方、新しい業態のサービス産業はカリフォルニア州などに集中しています。
つまり、職業における需要と供給のミスマッチが起きているということです。ラストベルトの労働者にとって、新しい職場があるからといっても、スキルがついていかないまま西海岸に転居するのは容易なことではないのです。
そこでトランプ大統領は、製造業をアメリカ国内に取り戻すとアピールし、熟練労働者たちの支持を獲得しているというわけです。
「格差」が「アメリカン・ドリーム」を生む?
基本的に人間は、「グリード」(欲張り)な面があります。その欲を満たすために、遮二無二に頑張って知恵を出し、挑戦をします。もちろん、挑戦した人のすべてが成功するわけではありません。大きな成功を遂げるのはほんの一握りの人たちで、彼らは巨万の富を得ることになります。
それが人々を刺激して、挑戦する人が増え、イノベーションが起き、新しい産業が生まれ、新しい雇用も生まれます。それが経済成長を促す一方で、「格差」を生み出します。つまり「格差」は、経済成長のエネルギーがもたらす副産物だともいえます。
さらに、アメリカでは、「移民」の存在が大きく、貧しい状態でアメリカに移民として来る彼らは、ハングリー精神をエネルギーに変えて挑戦します。たとえば、イーロン・マスク氏です。南アフリカからの留学生としてアメリカに移民し、一代で世界一の大金持ちになりました。彼は、「アメリカン・ドリーム」を見事に体現した人物です。
イーロン・マスク氏は、トランプ政権の大型減税法案に反対したことをきっかけに、トランプ大統領との不仲と対立は続いていますが、2024年の大統領選挙では、トランプ候補に巨額の資金提供を行っています。
