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土曜日はコム・デ・ギャルソンデー【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】

土曜日はコム・デ・ギャルソンデー【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】

エルメス

エルメスの会場に向かう途中、乗っていたメトロがなぜか最寄り駅を通過。「なんで?」と思い、急いで徒歩で一駅戻ったところ、メトロの入り口は封鎖され、周辺には警察官がたくさんいて、ものものしい雰囲気でした。あとで聞いたところ、近くで爆破予告があったのだとか。

エルメス 会場
エルメス 砂

会場に入ると砂が敷き詰められていました。よく見ると、貝殻も混じっており、南仏の海岸が表現されています。広大なカマルグの自然から抽出した色と乗馬の要素を掛け合わせたコレクションです。

ⓒFilippo Fior

エルメスのアーカイヴに保存されている1930年代の鞍(くら)から着想を得たフォルムが随所に施され、さまざまな加工のレザーが使われています。よく見ると、細部は職人の細かい作業が感じられます。ビスチェやブラを多用しながら、シルクカレとの組み合わせ方も新鮮です。茶色やベージュなどの色の加減が何ともいえずきれい。毎回思いますが、エルメスの色はほんとうに美しい。

バッグの数々にももちろん目が行きます。

エルメス
エルメス
エルメス

ⓒFilippo Fior

ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーの手がけるエルメスは、センシュアルさが前面に出ながらも自由で力強さを併せ持っている。そんな魅力を感じます。   

コム・デ・ギャルソン

川久保玲さんは私たちの想像の域を超えることをする。今回もまた。登場した服は表現しがたいオブジェのよう。ものの詰まった麻袋を重ねたようなフォルムや、しわだらけの麻の布。そこに加わる白やピンク。それらが不思議なバランスと調和と美しさを生み出していました。

コム・デ・ギャルソン
コム・デ・ギャルソン
コム・デ・ギャルソン

今回のコレクションについて、川久保さんは「完成された服にダメージを与えることにより、新しい感覚や価値観、ポジティブな気持ちを作り出すことを信じて制作した」のだそう。そのダメージとは「完璧なオブジェのような服を制作し、それを大きな機械に入れて洗うこと。これまで取り組んだことがない手法でありハードな仕事であるが故に、とても大きな決心が必要だった」。決断するまでに1か月かかったといいます。

関わる人たちがみんな必死に服を作り、「完璧」と思えるものが出来上がったところで、大きな機械に入れて洗う。どのような形になるかも想像できない、完璧だと思うものを壊していく作業の先に何があるのか。私たちには想像のできない覚悟が必要です。

しかし、そうした覚悟や重い決断のもとで生まれてきた服を見終わった時に湧いてきた感情は、とてもポジティブなものでした。スペイン人歌手のファーティマ・ミランダの独特な歌声や日爪ノブキさんの帽子も相まって、どこかプリミティブな、そして力強さが伝わってきました。

川久保さんは「それでも、自由やお互いを思いやることがなくなりそうな異様な世界の中で、何か強いことをしなくてはならないと思い決断に至った」と締めています。

何を美しいと感じるかは、人それぞれです。しかし、私自身はコム・デ・ギャルソンの服を見ていると、自分が美しいと思うものの視点が変化し、社会の価値観に振り回されなくてもいいと思うようになるのです。それは服から力をもらっているということでもあるかもしれません。

text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)

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配信元: marie claire

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