◆嫉妬が生んだ影
そのころから細川さんのアカウントに、根も葉もない中傷が書き込まれるようになったのです。「『キセルはやめません?』とか、『未成年と遊んでるの見苦しい』とか……。読むたびに胸が締め付けられました」
最初は無視しようとしましたが、コメントは増える一方で、次第に心を蝕ばまれていった細川さん。
そんなある日、久しぶりに二人でローカル線の旅に出かけた時です。到着が近づいたころ、木村さんがトイレに立った際、スマホを席に置き忘れたそうです。
何気なく目をやった細川さんは、見覚えのあるアイコンを画面に発見しました。それは嫌がらせコメントを投稿してきたアカウントと同じものでした。
「まさか……と思いました。スクロールすると、見覚えのあるコメントが残っていて。頭の中が真っ白になりました」
裏切られた衝撃と怒りで、細川さんの心は揺れ続けたと言います。
◆行動を起こした結果まさかの事態に
その日、細川さんは何とか感情を押し殺し、旅を最後まで続けました。けれど心の中では、何度も「なぜ?」と問い続けていたといいます。数日悩みぬいた末、彼は決断しました。木村さんのスマホを撮影した画像を、自身のアカウントに投稿したのです。「こういう書き込みはどうかと……」という短いコメントを添えて。
すると、不思議なほどに嫌がらせは止みました。同時に、木村さんは会社に顔を見せなくなり、やがて「一身上の理由」で退職したと伝えられました。
「友情って、こんなに脆いものなんだと痛感しました。裏切られたことは辛かったですが、あのとき行動を起こさなければ、自分はもっと壊れていたと思います」
細川さんは少し間を置き、こうも付け加えました。
「でも、鉄道は嫌いになれません。むしろあの出来事があったからこそ、これからはもっと自分の目で景色を見て、自分の言葉で伝えていきたいと思うんです」
“いいね!”という数字に翻弄され、友情が崩れた出来事は苦い経験でした。しかしそれは同時に、細川さんが一人の発信者として歩み出すための試練でもあったように思えました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

