保育士という新たな挑戦
──好きな作品にも携われて、声優の仕事が順調だったと思いますが、そこからなぜ保育士を目指そうと思ったんですか?
きっかけは2014年に子どもが生まれたことです。声優の仕事は時間が不規則ですから、日中は子どもと向き合う時間も多かったんです。「子どもってこうやって成長するんだな」と実感するうちに、せっかく育児の経験を積んだのだから、形に残る資格を取ってみようと考えるようになりました。
もう一つ理由がありまして。育児をしていれば男女問わずよくあることだと思いますが、妻も少し育児疲れになってしまうことがあったんです。「たまには外に出てリフレッシュしたら?」と言っても、「子どもが不安で出られない」と言うんです。それなら、「僕が保育の資格を持てば、安心して任せてもらえるのでは」と思いました。つまり、保育士資格を取ろうと決めたのは、我が子と妻のためだったんです。
とはいえ、保育士になる方法なんてまったく知りませんから、ネットで受験資格を調べ、通販で参考書を購入することから始めました。2016年の春に勉強を始め、10月の試験に間に合わせるスケジュールを立てました。
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──仕事と家庭と勉強の両立は大変だったのでは?
試験前の半年は声優の仕事を少しセーブして勉強に集中しました。ただ、そのぶん妻に家事や育児の負担がかかってしまい、申し訳なかったですね。でも妻は応援してくれていましたし、一発で合格すると宣言していたので、1日も休まず勉強を続けましたよ。結果はギリギリでしたが、なんとか一発で合格できました。
──保育士試験は科目数も多いですよね。どのように勉強したんですか?
特別なことはしていないと思います。参考書をひたすら読んで、ノートにまとめました。あとは問題集を解いて、間違えた箇所をノートに書き写し、調べて理解する、よくある受験勉強の方法です。
座学での知識は得られたものの、現場の知識や経験は乏しかったので、現場経験を積むために保育園で働こうと思いました。
──では、就職活動はどのようにされましたか?
2017年の1月に合格通知が届き、3月に保育士の登録をしました。それから家の近くで保育補助のアルバイト・パートを募集している園を探しました。子どもの送迎や自分の仕事との兼ね合いを考えると、やっぱり近所がいいなと思ったんです。なおかつ、保育を体系的に学びたいと考えていたので、教育体制やカリキュラムが整っていそうな大手の会社に5月あたりに応募しました。
書類がとおってから電話で一次面接をして、次に勤務先の園長先生と対面で面接をして内定をもらいました。勤務を開始したのが2017年7月です。
──電話面接だったんですね。応募先の採用担当者は服巻さんの経歴を見て驚かれたんじゃないですか?
40代の男性で現役の声優ですから「何者だ?」と思ったでしょうね。電話で担当者と話したとき、やたら緊張しているように感じたので、事前に調べてくれたんだろうなと思いました。園長先生との面接では「おもしろい経歴ですね。絵本をいっぱい読んでくださいね〜」と言われました(笑)。
保育現場で光る服巻浩司さんの声優スキル

──ここからは入職後の流れや仕事内容について伺います。初めて現場に入ったとき、子どもたちはどんな反応でしたか?
案の定、「このおじさんは誰?」と、最初はなかなか近づいてくれませんでした。ですから子どもたちとの距離を縮めるために、絵本を読むときはキャラクターになりきるようにしたんです。おばけの話ならおばけの声で、動物の話ならその鳴き声を交えて。そうしているうちに、年長や年中の子どもたちは自然に受け入れてくれるようになりました。
0歳や1歳の子は、男性というだけで警戒されることもあります。抱っこしようとすると泣かれてしまうことも多かったですが、顔を合わせていくうちに少しずつ慣れてくれましたね。
──では親御さんの反応はどうでしたか?
ちょっと懐疑的な目で見ているんだろうなとは感じましたよ。自分より年上の新人男性保育士ですから。でも、園長先生が説明してくれたり、フォローをしてくれたので、とくに問題はありませんでした。
──職員は女性の方が多いですか?
そうですね。先輩は20歳以上年下の方も多いです。年下でも保育の専門教育を受けてきた先輩なので、皆さんを尊敬していますし、「何なりとご指摘ください」という姿勢で臨んでいます。それが高圧的に映っていないか少し心配ですが(笑)。
人間関係も良好で、気づいたら今の園で8年も働いています。感謝の文化がしっかり根づいていて、本当に素晴らしい環境なんですよ。洗濯物を畳んでもらったら「ありがとうございます!」、オムツを持ってきてもらったら「ありがとうございます!」と、自然に声が出る。そういう雰囲気だからこそ、園内がいつも穏やかなんです。
──いい職場環境なんですね。ところで、声優の仕事と並行してとなると、勤務のスケジュールはどうしているんですか?
入職して数年間は週3日午前中に勤務し、午後は声優の現場へ向かっていました。現在は週2日、午前7時から9時の2時間勤務しています。
うちの園では、朝の受け入れをしたら登園している子ども全員を集めて8時半まで絵本の読み聞かせをしています。本来は正職員が対応するのですが、朝は何かと忙しいんですよね。なので、僕が絵本を担当する日もあります。
子どもたちが「これ読んで!」と本を持ってくるので、「はじまるよ〜」の手遊び歌をしている間にパラパラっと内容を把握し、感情を込めて読んでいきます。ときには本がすぐ終わってしまうこともありますが、そんなときは「この鬼さん怖いね〜」とか、「このおむすびおいしそうだね〜、どれどれ〜あむあむ!」と、アドリブを交えて時間を調整します。8時半ぴったりに終わると気持ちいいんですよ(笑)。こうした“尺の感覚”は、生放送のナレーション仕事で身につけた経験がそのまま活きていますね。
──ほかに声優のスキルが役立つ場面はありますか?
季節行事のサンタクロースや鬼の役は力を入れてやっています(笑)。子どもたちが本気でリアクションしてくれるのがうれしいですね。
──臨場感たっぷりで楽しそうです。では、保育士の仕事で難しいと感じる場面はありますか?
やはり、子どもたちに「伝える」ことですね。0歳や1歳の子には言葉で伝えても通じないことが多いです。3〜4歳になると少しずつ理解できるようになるので、声のトーンや表情を工夫します。
何か質問されたときは、「どうしてこうなるんだろうね?」と一緒に考えるようにしています。答えをすぐに伝えるより、子どもが自分で気づけるよう導くことや、知的好奇心を養ってあげることのほうがずっと大切だと思うんです。

