
そういえば、1年前は防草シートが敷かれていたんだったなぁ。
以前、物置や駐車場として使われていた『Hljóð(ヒュウド)』のお庭は、
時間を感じさせるような、コケのついた防草シートに覆われていて、
その頃は、まだどこか眠っているようでした。
そんななかでも、シートの隙間やコンクリートの割れ目から顔を出す雑草が
小さく「ここにいるよ」と語りかけているようにも見えました。
シートを剥がし、土を掘り起こして。
埋まっていた石の塊を飛び石にしながら、
芝や種、苗を植えていくと、そこにはやわらかく、やさしい空気が流れはじめました。
お店と一緒にお庭も、ゆっくりと時間を重ねてきたのだと思います。
4月に訪れた長崎の雲仙で、譲ってもらったコットンの種。
小さな芽が出て、花が咲き、実を結ぶまでのあいだ、
ほんのわずかな変化が、日々の暮らしに小さな幸せを運んできてくれました。

そして先日、綺麗な白い綿をのぞかせる実を見つけました。
そっと摘んだ綿は、本のページのあいだに挟んで。
紙の上で転がるその姿は、
ベッドの上で気持ちよさそうに寝転んでいるようでした。

edit:Sayuri Otobe
合わせて読みたい
LIFESTYLE 2025.11.5 椅子の“すき間”に、自分と同じ目線の花を。写真と文:齋藤拓磨 (花屋『Hljóð (ヒュウド) 』店主) #1
花屋『Hljóð(ヒュウド)』店主 齋藤 拓磨

さいとう・たくま/栃木県生まれ。建築設計事務所を経て、都内の花と古道具の店に携わる。2024年、東京・下落合に『Hljóð(ヒュウド)』を開く。「音」と「静けさ」を意味する言葉を店名に、季節の花や自然の移ろいを通して、人や場所を静かに繋ぐ時間をつくっている。

