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破格の年俸3200万円の「天才少年」がわずか15カ月で開発…中国IT大手が“リスク覚悟”で市場に投入する「永遠の未完成車」の正体

破格の年俸3200万円の「天才少年」がわずか15カ月で開発…中国IT大手が“リスク覚悟”で市場に投入する「永遠の未完成車」の正体

中国では、かつてのハードウェア中心の車とは異なり、ソフトウェアで車の機能や性能をアップデートできる「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)」の開発競争が激化している。開発期間も平均15~20カ月と、日本企業の半分以下。これほどのスピード感で開発を進められる背景には、IT大手による若手エリートの囲い込みと、リスクを恐れず市場投入する中国ならではの「開発手法」があった――。湯進氏の著書『2040中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より、中国SDV開発の最前線を追う。

過熱する中国IT大手の「SDV」開発競争

SDVの製造コストに占めるソフトの割合が20~40%となっているなか、ソフト人材を潤沢に抱えている大手テック企業は、SDVの開発に続々と参入し、スマホとEVが融合するコックピット、大規模AIモデル・自動運転の開発を急いでいる。

中国ではScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)は「STEAM」と呼ばれ、STEAM専攻の卒業生は2024年に500万人に達した。彼らに最も人気のある就職先はIT業界である。

一方、ファーウェイ、アリババ、テンセント、バイドゥなどITプラットフォーマーは、修士・博士の理系エリートを大量採用し、スピーディーに開発を行っている。

最大4000万円超…“破格の年俸”で若手エリートを囲い込むIT各社

ファーウェイは、2019年から「天才少年」と名づけた優秀な若手人材の募集プロジェクトを打ち出し、最先端技術を含む自社イノベーション力の向上を図ろうとしている。3階層に分けられた年俸額は89万~201万元(2019年時点・1元16円で計算すると、1424万~3216万円)で、中国の大学院卒平均年収の数倍に相当する。こうした破格の年俸で有能な人材を300人以上採用した。

2024年にはスマートカー・ソリューション事業部でも募集を開始し、コンピュータやロボット、AI、電子通信、制御の5領域にわたって車載電子やSDVの開発を急いでいる。

テンセントは2024年6月に「青雲計画」を打ち出し、大規模言語モデル分野に特化したトップ人材の確保を急いでいる。国内外のトップ大学の博士課程修了を最低条件とし、採用者数を前年比で5割増やす方針だ。博士課程修了者の報酬は年間70万元超が一般的だが、経験者で優秀な人材であれば100万~150万元となる。

またアリババグループは2024年7月にトップ人材向けの「T-Star計画」を打ち出し、新卒に世界の最先端技術課題を研究させる一方、若い優秀な技術人材を確保しようとしている。バイドゥは「AIDU計画」を設け、高い報酬とコンピューティングリソースを提供し、AI人材の育成に力を入れている。

開発期間2分の1…リスク覚悟の市場投入で“走りながら進化”

過酷な開発競争が、猛烈な働き方につながる一方、革新を起こしやすい環境も形成されており、SDV化が電動化とあいまって、中国NEVの知能化が加速している。

これまでのガソリン車では、開発期間「3年以上」というのが一般的であった。しかし、中国勢のSDVは、ソフトウエアや制御ユニットのアジャイル開発を行い、業界の常識を一変させている。アイデアをソフトウエアにした後、ハードウエアの仕様を決めていく。そして、発売後も車両をアップデートし、機能の調整や方向転換も実施する。

例えば、EV開発から工場での生産工程がすべて終了する「ラインオフ」までの期間を調べてみると、中国でホンダのEV新ブランド「燁(イエ)」は開発に約40カ月かかったのに対し、中国新興勢のEV開発の平均は15~20カ月、BYDも同16~22カ月と半分程度だ【図表】。

注:筆者概算 出所:現地企業へのヒアリングより筆者作成 [図表]新車開発からラインオフまでのリードタイム 注:筆者概算
出所:現地企業へのヒアリングより筆者作成

実際、シャオミのEV「SU7」に試乗してみたが、スマホと統合されたシステムの完成度は高く、車両機能の設定・管理・操作など消費者の心をつかむ体験も多く、走るスマホといっても過言ではない【写真】。

出所:いずれも筆者撮影 [写真]シャオミ工場周辺でEVに試乗/EVSU7のテスト 出所:いずれも筆者撮影

シャオミは「人・車・家」のエコシステムの構築を目指し、独自のOS「澎湃」で家電とEVの連携を広げ、ライフスタイルの差別化でユーザーの確保を狙う。一方、消費者の世代交代が進むとSDVが受け入れやすくなり、スマホメーカーからEVへの参入は消費者に合ったトレンドであろう。

確かに、開発期間の短縮によって品質を落としたメーカーもなくはない。内装や装備は豪華に見えても、見えない部分の部材を安価なものにすり替えたり、開発・製造のプロセスの手を抜いたりする例もある。

こうしたなか、中国企業はリスクをとりながら素早く製品を市場に投入し、フィードバックと改善を繰り返しながら、技術や製品の進化を進めている。

湯 進

みずほ銀行

ビジネスソリューション部上席主任研究員

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