◆統一教会の高額献金と自民党との関係
事件後、山上被告の母親が世界平和統一家庭連合(統一協会)の熱心な信者で、1億円を超える献金をして家庭が崩壊し、山上被告は「統一協会トップが日本に来たときに、殺そうと思っていたが、来ないのであきらめ、統一協会の宣伝をしている政治家の安倍氏を狙った」と供述しているとされる。この事件で、統一協会の高額献金は、国会でも問題になり、今年3月には、東京地裁が解散命令を決定し、現在、東京高裁で審理が続いている。
筆者は22年8月以降、被告に手紙や著書、記事などを郵送したり、弁護士の伯父を訪ねるなど、山上被告の裁判に強い関心を持っている。それは、この事件で、統一協会が日本で布教を開始した際、安倍氏の祖父、元A級戦犯の岸信介元首相が全面支援し、その後、半世紀にわたって自民党が統一協会と一体だったことが明るみになったからだ。
この事件では、精神鑑定が長引き、9回公判前手続きを経て、拘束から3年3カ月後に初公判を迎えた。民主主義国ではあり得ない異常な事態だ。筆者は古川、小城両弁護士に取材し、日刊SPA!に<安倍氏殺害の山上容疑者「精神鑑定で4か月も留置」は口封じの政治的拘束か>というタイトルで記事を書いている。
◆思索を重ねて達観した哲学者のように見えた

山上被告を起訴したのは奈良地検で、裁判は奈良で行われるのに、身柄は大阪拘置所に移されたままだ。弁護団は奈良の拘置所に移送を求めているが、認められていない。異例の対応といえる。
山上被告の入退廷では、制服姿の頑強な拘置所係官が5人も付き添い、手錠を掛け、腰縄を付けられている。先に着席している田中裁判長が「拘束を解除ください」と促し、手錠などを外す。裁判員、傍聴人に手錠姿の被告人を見せるのは不適切ではないか。山上被告が弁護人の隣に着席すると、係官の一人が後方に密着し、ずっと威圧しているように見えた。
無罪を推定されている被告人の手錠の扱いを法廷外で行う裁判体もあるので、改善してほしい。山上被告は初公判で起訴事実を「すべて事実です。私がしたことで間違いない。法律上のことは弁護団に任せる」と述べた。
初公判の閉廷後、弁護人二人が囲み取材に応じた。受け答えを聞いていて、しっかりした弁護団だと改めて思った。ラジオ・フランスの西村カレン記者が「検察は死刑を適用しようとしているのか」と質問。藤本弁護士は「その可能性はある」と答えた。新聞記者が「山上被告から贖罪、謝罪の言葉は出ているか」と聞いたのに対し、松本弁護士は「被告人質問で被告人が詳しく話すと思うので、それを待ってほしい」と答えた。筆者は「精神医学の専門家の証人は呼ばないのか」と聞いたが、松本弁護士は「予定はない」と答えた。

