
◆インドとタイ赴任を経験して感じた家族の絆

「そこでの生活で家族の絆など、かけがえのない経験をしたと思います」(健司さん)
夫妻にとってインド生活は大きな経験と感動だった。日本との違いはあるものの、想像していたほど悪いものでもなく、むしろ家族帯同でインド駐在を勧めたいほど気に入る。
その後タイ赴任となり、バンコクはインドよりも過ごしやすい環境で暮らせた。
「バンコクは日本人が多いから、日本人家族向けの幼稚園や学校のサービスや水準は申し分ないです。だけど、これがあったらいいのに、と思うことも多々ありました」(健司さん)
そんな中の2023年、会社から日本への帰任命令が出る。このとき、夫妻はバンコクに残ることを決断していた。
インドで感じた家族の絆を、これから海外赴任する日本人会社員の家族にも感じてほしい。海外赴任でも家族とともに過ごせることや、子どもが小さい大切な時期を夫婦で見守っていくことを、これから勤め先の都合で海外駐在する人にも諦めてほしくない。そういった想いを、こども園を開設すれば実現できる。そして、それは自分にしかできないことだと健司さんは考えた。
というのは、実は健司さんの実家がこども園だったことも大きい。健司さん自身、子どもを預かる施設が身近にある環境で育ってきた。そんな子ども時代を持ち、かつ海外駐在経験もあるという人がほかにいるだろうか。自分にしかできないことがある。それをやるのは今しかない、という想いで日本に帰らず、退職を決意したのだった。
◆夫妻の想いをタイで具現化

バンコクで一軒家を借り、業者だけでなく賛同してくれたSNSフォロワーなどのボランティアの方々にも手伝ってもらいつつ、こども園へとリフォーム。日本とタイでは法令が異なることも、夫妻が理想とする運営方法に近づけることができる味方となる。
たとえば、日本の教育施設における調理室は閉鎖された個室を用意する必要がある。タイではオープンキッチンにすることが可能という違いがあった。特に崎村夫妻は食育を重視するため、キッチンに壁がなく、給食室以外にも食べものの香りが感じられる造りが望ましい。
「おうちにいるような、親しみやすい環境にしているんです」(のりこさん)

