◆新しい基準を採用できるのもタイの教育環境の魅力

「最新の情報や保護者のニーズにとことん向き合うこと、改善を繰り返すことを大切にしています。子どもの教育や健康にかかわる分野はどんどん進化するので常に勉強です。知れば知るほど子どもたちのために採用しない手はないと感じます」(のりこさん)
その点では、タイの子どもの教育における現場判断の許容範囲は比較的広い。そのため、園の判断で最新の方法を採用できることも多い。夫妻は開園後も学び続け、間違いないとわかったものはどんどん取りいれる姿勢もまた、この園のひとつの方針だ。
崎村夫妻がバンコクでこども園を開くことに至ったのは、そもそも最終目標を「こども園」に置くのではなく、冒頭のように家族の絆を深め、海外赴任であっても子どもの幼少期に家族がともに過ごすことができるようにするためだ。つまり「日本人家族がかけがえのない時間を過ごすため、なにか手伝いができれば」(健司さん)という信念がある。
これが一番強い柱となっていて、たとえば、ほかの園では延長料金がかかるような時間帯も通常どおりに受けいれる。バンコク駐在中に自身の子どもたちを預けた先で感じた「あったらいいな」のひとつでもある。
さらに、園の給食は週に1回「魚の日」を設けるなど、さまざまな味に挑戦させるという、他園にはない目的も盛りこんでいる。ほかには、嫌われやすい野菜や味は何度もメニューに組みこみ慣れることで克服させる、子どもたちの腸内環境を考え小麦粉や白砂糖などは使わないといった手法も取りいれている。さらに、クッキングの日も月1ではじめていて、取材の数日前には味噌を作ったそうだ。
「クッキングは全園児が必ず参加できるよう工夫しています」(のりこさん)
タイさくらキッズでは取材時で25人の園児がいて、一番下は1歳数か月。こんな歳でもできる範囲で調理に参加させることもこだわりのひとつ。自宅に帰って父母と作るとき、園児が先生になることができて家族の会話が生まれるという狙いもある。
この記事が出ているころには園の庭にはピザ釜が完成していることだろう。園児の父親たちの手を借りて釜を造り、父親たち自らがピザを焼き、園児や母親に楽しんでもらうという計画だ。
ほかにも、先述のように食べものを生産する人もそうだし仏教美術をタイの大学で教える日本人客員教授など、タイ農業や文化にかかわる日本人も少なくなく、崎村夫妻のネットワークでコラボクッキング教室のほか、タイに関係する講演会も開催する。もちろん講演会は園児向けではなく、保護者向けだ。

バンコクでこの業態・手法が軌道に乗り次第、崎村夫妻としては「次はインドでもこども園を開園する準備に取りかかろうと思います」ということである。
<取材・文・撮影/髙田胤臣>
【髙田胤臣】
髙田胤臣(たかだたねおみ)。タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に彩図社「裏の歩き方」シリーズ、晶文社「亜細亜熱帯怪談」「タイ飯、沼」、光文社新書「だからタイはおもしろい」などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。YouTube「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中

