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AmazonがPerplexity「AI買い物代行」を“違法”と提訴 ECの巨人が“便利機能”の排除に動いた真意は?

AmazonがPerplexity「AI買い物代行」を“違法”と提訴 ECの巨人が“便利機能”の排除に動いた真意は?

「PerplexityはAmazonから強硬な法的脅迫を受け、CometユーザーがAmazonで同社のAIアシスタントを使用することを禁止するよう要求されました。これはAmazonがAI企業に対して行った初の法的攻撃であり、すべてのインターネットユーザーにとって脅威です」

Amazonに対し、こう非難の声を上げたのは日本でも浸透が進む新興AI企業のPerplexity(パープレキシティ)だ。一方のAmazonは、同社の行為に「消費者に代わってAIがネット通販で商品を注文する機能をAmazonの許可なく提供し、AIの操作であることを隠したのは違法だ」と指摘し、米連邦地裁に提訴した。

ECの巨人と新興AI企業はどこで衝突したのか

両者の間に一体何があったのか。

ことの発端はPerplexityがAIを搭載したブラウザー(ウェブ閲覧ソフト)「Comet(コメット)」でAIによる商品購入や旅行予約などを代行する「AIエージェント」をリリースしたことにある。この機能を使えば、AIが買い物を代行し、ユーザーは指示を出すだけでショッピングを完結できる。

いかにもAI時代にふさわしいサービスといえるが、この行為がAmazonにとっては、「買い物や顧客サポートの体験の質を著しく下げている」とし、“退場”を求めたのだ。

ネット上で商品を販売するAmazonにとって、AIによる買い物代行は、一見すると売上に貢献する新たなテクノロジーの参入と捉え、歓迎してもよさそうだ。だが、どうやら、問題の本質はそこではないようだ。

訴訟トラブルの本質とは

「Amazonの要求は法的根拠に基づくものであり、かかる要求自体に法的問題があるものとは考えられません」

こう解説するのはAI関連の法律問題に詳しい河瀬季弁護士だ。

「米Amazonが米Perplexityに送付した2025年10月31日付の『停止通告書(Demand to Cease and Desist)』(以下「本件通告」)によれば、PerplexityがAmazonストアに秘密裏に侵入した行為 は、Amazonの利用規約及びコンピュータ詐欺・濫用法(CFAA、日本法でいう「不正アクセス禁止法」)に違反していると主張されています。

Amazonの利用規約には、エージェント(個人もしくは組織に代わって、またはその指示に従って、自律的または準自律的な行動をとるソフトウェアまたはサービス)に関する条項が含まれており、Amazonストア内でエージェントを使用する場合は、Amazonが定める条件に従い『透明性』のある行動が要求されています。

しかし、本件通告によれば、Perplexityは、AIエージェントを利用して自らを『Google Chromeブラウザ』であるかのように偽装し、Amazonによる識別を意図的に回避していた、ということのようです。仮にこれが事実であれば、Perplexityによる上記行為は、明確に利用規約に違反するといえるでしょう」(河瀬弁護士)

Amazonに利益をもたらしている側面もあるが

これが事実なら、Perplexityは、最新テクノロジーでAmazonの売り上げに貢献すると見せかけ、Amazonの‟店内”を違法に物色していたことになる。

疑惑に対し、Perplexity側は「Amazonにログインしている場合、Cometの認証情報はデバイス内にのみ安全に保存され、Perplexityのサーバーには一切保存されません」とし、そのうえで「Cometアシスタントがすぐに商品を見つけて購入してくれるので、ユーザーはより重要な作業に時間を割くことができます」とむしろ、ユーザーに利益をもたらしていると反論する。

この点について、河瀬弁護士は次のように見立てる。

「あくまで『一般的な問題』として、今回のPerplexityのような行為が『体験の質を下げる』か否かという点については、さまざまな見解がありうると思います。

本件通告によれば、Amazonは、Comet AIが最適な価格、配送方法、おすすめ商品を選択しない可能性、利用者が重要な商品情報を受け取れない可能性などから、Amazonが構築したショッピング体験を低下させていると主張しています。

しかし例えば、利用者によっては、仮にAIエージェントがAmazon推奨の最適解を選択しなかったとしても、自ら操作せずに購買が完了する『利便性』の方が上回ると判断する可能性も十分にあるでしょう。

ただし、前述のとおり、法的主張の当否という観点からは、この『体験の質』の議論は本筋ではありません。Amazonの要求の主たる法的根拠は、あくまでPerplexityが利用規約に違反しているという点にあります」

規約違反という観点では、AmazonがAIエージェントの活動を特定した後、Perplexityに対して透明性を確保するよう要求したが、同社がこれを拒否。そのため、AmazonはComet AIエージェントのアクセスを制限する技術的なセキュリティ措置を講じたが、その直後にPerplexityは新バージョンをリリースし、当該措置を「意図的に回避」したという。

米国の判例(Facebook, Inc. v. Power Ventures, Inc. )では、「アクセス許可が取り消された後に、技術的なブロックを回避してアクセスを継続する行為は、CFAAが禁じる『権限のないアクセス』に該当すると判断されている」といい、Amazon側もそのあたりを争点としている。

AI企業が摩擦を解消するためにとるべき策とは

新興のAI企業は、発足時から、旧来のネット企業とたびたび摩擦を生じさせてきた。ネット上のデータを‟食べる”ことで進化を遂げるAIの宿命ともいえるが、食われる側は「勝手にデータを奪われた」という強い不満を抱いており、溝を埋める最適解にはいまだ辿り着けていないのが実情だ。

こうしたトラブルを最前線で多数、見聞している河瀬弁護士は解決への道を次のように展望する。

「今回の対立は、AIエージェントによる利便性を追求する新興AI企業と、自社プラットフォームのセキュリティ、顧客体験、ブランドイメージの『統制(コントロール)』を維持したいビッグテックとの間で生じた、デジタルエコシステムにおける境界線をめぐる象徴的な対立といえるでしょう。

ただし、本件通告においても、AmazonはAIイノベーション自体を否定しているわけではなく、むしろ『(AIプロバイダーとの)対話を歓迎する』 とも述べており、問題視しているのはあくまで透明性のない、秘密裏な活動であると主張しています。

この点を踏まえると、具体的な『落としどころ』としては、プラットフォーム側が、外部のAIエージェントが安全かつ透明性を持ってアクセスするための公式な『API(Application Programming Interface)』を整備・提供することが考えられます。

新興AI企業は、プラットフォーム側とAPI利用に関する契約を結び、利用規約(エージェント条項)に基づき身元を明らかにし、プラットフォームが定めるセキュリティ基準や動作ルールを遵守してAPI経由でアクセスすることで、プラットフォーム側は、セキュリティと顧客体験を自社の管理下に置きつつ、API利用料や取引成立時のレベニューシェア(※)といった形で新たな収益モデルを構築できる可能性があります」

※収益をあらかじめ決めた割合で分け合うこと

Perplexityは「われわれはユーザーの権利のために闘っています。私たちの製品は人々のために設計されているからこそ、人々に愛されています。ユーザーの選択と自由は、私たちが作るすべてのものの中心にあります。 おそらくそれが、私たちが企業のいじめっ子の標的になる理由なのでしょう」と皮肉を込めながら、革新の担い手として胸を張った。

革新と旧体制からの反発はトレードオフといえるが、前進するなら新たなシステムの構築は不可欠だ。そこに両者の視点が定まってくれば、センセーショナルに登場したAI企業と旧来のネット関連企業の溝は急速に埋まっていくはずだが…。

配信元: 弁護士JP

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