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「拷問のよう」夏の入浴介助、エアコンない家での作業も…訪問介護ヘルパー3割が酷暑で「離職」検討の実態明らかに

「拷問のよう」夏の入浴介助、エアコンない家での作業も…訪問介護ヘルパー3割が酷暑で「離職」検討の実態明らかに

記録的な猛暑となった今年の夏。訪問介護等を担うヘルパーらの約3割が「利用者宅にエアコンがつけられていない」「早めに利用者宅に到着しても日陰で待機できない」「炎天下の移動がきつい」といった理由で健康に不安を感じ、離職を考えていた――。

ヘルパーらの過酷な労働実態が明らかになったのは、介護・医療関係者や家族、研究者らで構成される「ケア社会をつくる会」が実施した、緊急アンケート「炎天下の訪問介護・移動支援について」だ。

同会は結果を取りまとめ、訪問介護の基本報酬の引き上げや、酷暑・豪雨など災害級の気象条件下でも訪問介護を行うヘルパーに対する「災害時対応手当」の創設などを求め、11月13日、高市早苗首相と上野賢一郎厚労相宛てに要望書を提出した。

緊急アンケート実施の背景

緊急アンケートは、自身もヘルパーとして働く藤原るかさんの発案で行われた。

都内で開かれた要望書提出前の会見で、藤原さんは実施の理由をこう語った。

「今年の夏は本当に命の危機を感じた。ヘルパー同士で『つらいね』と言い合っていても状況は変わらない。アンケートで実態を明らかにして国に伝えよう、黙っていてはダメだと思った」

アンケートは「ケア社会をつくる会」が作成し、インターネットで回答を募集。37都道府県から851件の有効回答が寄せられた。

浮かび上がった“移動時間の過酷さ”

回答からは、サービス(ケア)提供時間に対して、移動時間が長いというヘルパーらの特殊な働き方が浮かび上がった。

1日の移動時間については、「50~80分」が36%、「90~120分」が31.2%に上り、「180分以上」と回答した人も7%いた。

一方で、1件あたりのサービス(ケア)提供時間は、15~20分が52.4%と半数を超えた。

ケア社会をつくる会・世話人の小島美里さんは「都心では特に自転車移動の人が多く、移動時間の暑さの問題は深刻」と説明する。

実際に「夏季の移動に係る負担について」を聞いたアンケート項目では、9割以上が「つらい」と回答した(「とてもつらい」64.3%、「つらい」30.4%)。

「移動や休憩が給与の対象になっていない登録型ヘルパーも多い中、昨年の介護報酬改定ではさらに基本報酬が引き下げられた。事業所の閉鎖も相次ぎ、どの事業所も暑さ対策グッズを十分に買う余裕もないほど切迫している。この状況で、介護ヘルパーの特殊な働き方を考慮しない国の対応には強い憤りを感じている」(小島さん)

現場から寄せられた“悲痛な声”

また、アンケートでは、7割以上のヘルパーが「熱中症のような症状がでたことがある」と回答(「よくある」10.2%、「時々ある」36.7%、「まれにある」29.9%)。約3割が、「今夏の暑さで退職を考えたことがある」と回答した。

さらに、自由回答欄には、現場の悲痛な声が数多く寄せられた。

「どんなに暑くてもヘルパーはやってくれて当然だと思っている利用者が多い。移動支援はもちろん、エアコンが付いていない部屋の掃除などの家事援助や入浴介助も非常につらい。自分自身の健康を考え、この仕事を辞めたいと思っている」

「入浴介助は拷問のよう。マスクも付けなければならない決まりで、息切れやめまいで倒れそうになる。車移動でエアコンをつけても、ケアの間にすぐまた高温になるため、ガソリンの消費が多く、ガソリン代も高く、事業所からはそれほど補助もないし生活が厳しいと感じる」

「(利用者宅への)到着時の状況によっては、室内での汗拭き、着替え、冷却の時間などを取ることへの協力ご理解を利用者さま、ご家族および制度やルールにも望みます」

支援策は自治体まかせの現状「国が率先して」

東京都は今夏、猛暑を受けて「令和7年 訪問系介護サービス 暑さ対策緊急支援事業」を実施し、訪問介護員の暑さ対策グッズ購入経費の補助を行った。

東京都で訪問介護事業を手掛ける「NPO法人グレースケア機構」の柳本文貴代表は、「ほかの自治体で同様の補助を聞いたことはなく、ありがたかった」としたうえで、「課題」についても次のように指摘した。

「1~10名の事業所には10万円、11~20名は20万円と職員数に応じた補助金が、41名以上の事業所には一律50万円の支給だった。私たちの事業所には約180人が所属しているため、1人当たりにするとごくわずかな金額になってしまった」(柳本代表)

ケア社会をつくる会の小島さんは、「北海道でも40度を超えるような猛暑。こうした暑さは来夏以降も続くと予想されている。自治体レベルの支援では限界があり、国が率先して動くべき」と強調する。

介護ヘルパーの藤原さんは、国土交通省が2026年から土木工事に「夏季休工」を試行的に導入することを例に挙げ、厚労省にも対策を求めた。

「私たちヘルパーは自分で自分を守りながら、訪問先の方々の命や暮らしを守っている。政策・制度として、国をあげて支援してもらわなければ、多くのヘルパーが仕事を続けられないところまで来ている。国としての考えを示していただきたい」

藤原さんが夏季の訪問介護時に持ち運ぶ冷却グッズ等(一部)。ペットボトルは凍らせて2本以上用意するという。ハンディファンは東京都の補助金で購入した。
配信元: 弁護士JP

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