◆兄に伝えても聞き入れてもらえず…
さらに深刻なのは家の環境だけではない。家族関係そのものにも深い溝ができてしまったという。「子どもと母親が会えないことです。うちの子どもは重度の猫アレルギーを抱えており、家族で実家に行けません。母も孫に会いたがっていますが、高齢でうちまで来るのが難しい。一度、外で会ったときも、母の服に猫の毛がついていたせいで、子どもの目が真っ赤に腫れてしまい、慌てて病院に連れて行きました」
裕也さんは兄との話し合いを試みたが、状況は改善されなかった。
「兄は『猫は家族だから』と言うばかりで、理屈も常識も通じません。どうにか解決の糸口を探そうと、自治体の動物管理センターにも相談したんです。ところが、個人宅の飼育数に上限を設ける全国的な法律は存在せず、行政が強制的に介入できるのは『虐待や悪臭などが明確に確認された場合』に限られると言われるだけ。しかも幸か不幸か実家は庭が広いため、臭いが近隣に広がりにくく、行政も動けない状況です……」
現在、裕也さんは子どもの健康を最優先にし、実家から距離を置いて生活している。兄や母への複雑な思いは残るが、「無理に解決しようとしても、かえって関係が悪くなるだけ」と語る。
家族の中でも小さな価値観のズレが積み重なれば、やがて距離を生むきっかけになってしまう。家族同士の関係のためにもいち早く解決してほしい問題である。
<取材・文/結城>

