◆「暴挙といえるスケジュール」の弊害
さて、負傷者が多いと自ずと候補選手が絞られるわけだ。これは日本だけではなく、世界中で議論を呼ぶ大きな問題なのだ。大抵のクラブは大事な時期に所属選手をナショナルチームに招集されることを嫌う。招集に対して非協力的になり各国の協会と険悪になるなんて話も珍しくない。息苦しい関係性を改善するために、FIFAはインターナショナルマッチウィークというものを定め、その期間は各国の協会が優先的に招集権を持つことになった。必然的にクラブやリーグは、その期間中に試合を行わないスケジュールを組むようになった。それが現代の世界的潮流となのである。
しかし、今回のインターナショナルマッチウィークにおいて、日本サッカー協会は暴挙といえるスケジュールを組んでいる。天皇杯の準決勝を行うのだ。
それに起因して大迫敬介、長友佑都、相馬勇紀、望月ヘンリー海輝らを擁し、準決勝を戦う町田、さらにはFC東京、神戸、広島に所属する選手を招集しなかった。山本昌邦技術委員長兼ナショナルチームダイレクターは会見のなかで「Jリーグのクラブで事前に私のところへ招集を何とかしてくださいといったチームはひとつもありません」と話したことから察するに、森保監督が準決勝進出クラブに忖度して招集しなかったというのが正確なところだろう。
◆身内が足を引っ張る事態は避けたい
ワールドカップ本大会に向けた選手選考までは、今回の試合も含めて4試合。つまり、招集機会はあと1回しか残されていない。先述したように、ほぼほぼ最終メンバーは決まっているのだろうが、あと1枠2枠といったところへ飛び込みでチャンスをつかめる選手もいるのは確かで、わずかな枠をかけて全力で争っている。Jリーグが秋冬制に移行することもあり、今後は同様の事態が起こらないように対策するとJFAは主張する。だが、今回も延期するなりの措置ができたのではないだろうか。これでワールドカップ出場のチャンスを逃す選手がいるかもしれないと思うと、どうにもいたたまれない。
なかなかフルメンバーが揃わない状況が続くのは、もどかしくもある。だからこそ、これまでどおりできることに取り組むというポジティブな姿勢で臨んでほしい。
ただ、今回の天皇杯開催のように身内が足を引っ張る事態はとにかく避けるべきだろう。森保監督が常々呼びかける「共闘」を実現する体制をしっかりと整えてもらいたい。
<TEXT/ 川原宏樹 撮影/松岡健三郎>
【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

