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なぜ「JAL」で事故・アルコール問題が相次ぐのか? 「普通の会社ならあり得ない」国の行政処分も効かない“根本的な原因”とは

なぜ「JAL」で事故・アルコール問題が相次ぐのか? 「普通の会社ならあり得ない」国の行政処分も効かない“根本的な原因”とは

2024年1月2日、羽田空港の滑走路上で日本航空機と海上保安庁機が衝突し、海保機の乗員5人が犠牲になった事故から、すでに1年10か月以上が経った。

にもかかわらず、この間もJALでは航空事故や、パイロットのアルコールに関する不祥事が相次いでいる。11月13日に衆議院第一議員会館で開かれた院内集会では、同社の元パイロット・CAらが「空の安全が揺らいでいる」として、事故とアルコールにまつわる問題の深刻な実態を告発した。

羽田衝突後も接触事故など多発

この日の集会に出席したJAL乗員争議団の近村一也団長によると、羽田の事故から1年余りの間に、JALは国内外で合計4件の「航空事故」と「重大インシデント」を起こしているという。

中でも象徴的なのが、今年2月に米シアトル空港でJAL機が地上走行中に他社機の翼に接触した事故だ。

元機長でJAL被解雇者労働組合の山口宏弥委員長は「こうした話を聞けば、『JALに乗るのはやめようかな』と考える人もいるかと思うが、事実は事実だ」と話した。

シミュレーター頼みと「安上がり」のツケ

事故の背景として浮かび上がるのが、「安上がり」な訓練と人員配置だ。シアトルの接触事故について、山口委員長はこう分析する。

「いま、訓練はほぼシミュレーター頼みになっている。シミュレーターには現実の翼がない。(事故を起こしたパイロットが)機体に慣れていたのか、乗員らのコミュニケーションはどうだったのかといった点に着目する必要がある」

実際、ANAでも同様に自社機どうしの接触事故を起こしており(2024年2月)、山口委員長は「会社が安上がり、規制緩和、経費節減を目指した結果がこうした事故の大きな原因になっている」と指摘する。

また、運行管理体制の変質も指摘された。かつては離着陸に際して、運行管理者が現場に張り付き、滑走路や誘導路の状況を直接確認しながらパイロットとやりとりしていた。しかし現在は、2人のパイロットがパソコン画面をにらみ、データだけで判断する場面が増えているという。

止まらないアルコール不祥事

さらに深刻なのが、パイロットの飲酒問題だ。2018年、ロンドンの空港で「酒臭いパイロットがいる」と通報され、現地で大きな問題となった事件を皮切りに、JALでは飲酒に絡む事案が計5件繰り返されてきた。

国土交通省からはこれまでに複数回の行政処分が出ており、山口委員長は以下のように述べた。

「厳重注意を受け、業務改善命令まで出され、それでもまた厳重注意。普通の会社ならあり得ないサイクルだ。なぜ止まらないのかを、本気で考えていないとしか思えない」

「答えは現場にあるのに…」

山口委員長は、形式的な再発防止策の繰り返しが、むしろ現場の士気を下げていると指摘する。飲酒問題への会社側の対応も、現場からは強い批判が出た。

JALは9月、パイロットの飲酒に関する新たな安全対策を公表した。海外滞在地では24時間・48時間を問わず「一切の飲酒禁止」とし、さらに「アルコール傾向」のあるパイロットをリストアップし、監視役が同乗して飛行する仕組み(ライブモニター)を導入しているという。

しかし山口委員長は、「資格を持ち、酔ってもいないパイロットの“私生活の酒の好み”まで分類して監視するやり方は、本質を外している」と批判する。

「お酒が好きな人のフライトに、監視役が同乗したからといって、滞在地で一緒に飲むはずがない。そんな“やってる感”のパフォーマンスでは、再発防止にはならない」(山口委員長)

では、どのような対策を講じるべきなのか。現場からの提案は「答えは現場にある」というシンプルなものだ。

JALでは2010年末、経営破綻を理由に165名のベテラン乗務員・パイロットを整理解雇し、「もの言う労働者」「闘う労働組合」を排除してきた歴史がある。その後、JALはパイロット700人、客室乗務員7500人以上を新規採用したが、整理解雇された165人は今も職場に復帰できていない。

「社員はセンサーで、労働組合は警報機です。警報機が動かなくなってもダメですし、ひとりひとりのセンサーが働かなかったら安全は保てません」(同前)

現役パイロットも苦言「最大の安全リスクは…」

この日の集会では、複数の現役パイロットからのメッセージの代読も行われた。ある現役パイロットは次のようにコメントする。

「会社側は人員削減を目的に整理解雇を強行し、その後も組合が整理解雇の解決には再雇用が最も有効的であると進言し続けてきたにもかかわらず、経営陣は乗員は足りていると豪語してきた。

それなのに、突然パイロットが足りないと説明し、外国人パイロットの採用を開始した。

だが、採用後、実際にパイロットとして稼働するに至る成功率を考慮すると、教官を含む人材リソースが無駄に消費されている状況にある。

むしろ、経営への不信感を持つ現役パイロットが他社に流出している現状を考慮すれば、外国人パイロットの導入はJALの運航維持能力的にもマイナスだ。

一方、経営陣や組織が経費削減を目標に、安全基準の緩和やマニュアルの一方的な改悪、また、安全をむしばむ制度の導入を強行している。こうした会社側の動きに対する組合や現場の意見を無視し続けていることが、JALにとっての最大の安全リスクではないか」

520名が犠牲になった1985年8月12日の日航123便墜落事故から40年。JAL被解雇者労働組合の山﨑秀樹書記長は「JALの『沈まぬ太陽』は終わっていない」と述べた。

なお、弁護士JPニュース編集部では労働争議や安全問題についてJALにもコメントを求めたが現在まで回答は得られていない(11月14日16時30分時点)。

配信元: 弁護士JP

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