いつまでも輝く女性に ranune
夫を亡くした収入ゼロ・専業主婦の貯金が“4,000万円”。ネチネチ激ヅメするベテラン税務調査官、「あまり記憶が…」と曖昧な回答の78歳女性に完敗した理由【税理士が解説】

夫を亡くした収入ゼロ・専業主婦の貯金が“4,000万円”。ネチネチ激ヅメするベテラン税務調査官、「あまり記憶が…」と曖昧な回答の78歳女性に完敗した理由【税理士が解説】

「相続財産が多いと税務署が来る」は常識です。しかし、本当に恐ろしいのは、税務調査官が「あるはずの預金が“少なすぎる”」と気づいたとき。その消えたお金の行先が、収入のないはずの家族の口座だったとしたら……。それは、税務署が「名義預金」を確信する瞬間にほかなりません。本稿では、相続税申告に詳しい税理士の中垣健税理士事務所の中垣健税理士が、ある家族の事例とともに税務調査の実態を明かします。

「預金が少ない」疑念から始まった税務調査

相続税の申告書は、税理士としてできる限り万全を期して提出します。だからこそ、税務調査の通知が来ると「えっ、なにかあったのか?」と驚かされることがあります。今回紹介するのは、まさにそのような案件でした。

被相続人は80歳の男性。会社を定年まで勤め上げたあとは、兼業農家として畑仕事を楽しみながら穏やかに暮らしていました。相続財産が約1億5,000万円と、やや財産は多め。妻は専業主婦(78歳)、子どもは主婦でパート勤務の長女(53歳)と会社員の長男(50歳)、さらに、まだ学生の孫が6人いました。

相続税の申告書を作成した際、筆者は特に問題ないと考えていました。相続財産の中心は土地と建物で、預金は約3,800万円。生前に何度か土地を売却しており、収用を含めて合計7,000万円以上の収入があったものの、それ以外の収入や支出に大きな不自然さは見当たりませんでした。

ところが、税務署の見立ては違いました。「土地を複数回売却している割に預金が少なすぎるのではないか」「専業主婦の奥さんの口座に4,000万円もあるのは不自然だ」こうした指摘から、調査の対象になったのです。つまり「名義預金」の可能性を疑われたわけです。

税務調査というと、多額の財産を隠している人が狙われると思われがちです。しかし実際には、「預金が少なすぎる」ことも調査のきっかけになります。

税務署が行う相続税調査の目的は、申告漏れを発見することにあります。そのなかでも最も注目されるのが「名義預金」です。調査官は一般的に、亡くなる直前10年間の預金取引のうち、50万円を超える出金については、その使途をすべて確認します。

・このお金はなにに使ったのか

・誰が使ったのか

・その資金はどこから来たのか

これらを一つずつ、根気よく突き止めていきます。

税務署にとって「多すぎる預金」も「少なすぎる預金」も、どちらも調査の理由になり得ます。つまり、相続税調査とは「お金の出入りに説明できない部分があるかどうか」を確認する作業なのです。

焦点は「通帳の管理者」…ベテラン調査官の“静かな尋問”

税務署による聞き取り調査は2日間にわたり行われました。調査官は2名で、ベテランと若手のコンビ。

ベテラン調査官は物腰が柔らかく、まるで医師が患者に話を聞くような口調で穏やかに話を進めていきます。「ちょっと思い出せないかもしれませんが、どんな感じだったか教えていただけますか?」そういって相手の心を開かせ、油断したところで核心を突く質問を投げかける。「本当ですか?」と静かに詰め寄るときの迫力は、長年の経験を感じさせるものでした。

調査官はまず、被相続人の預金の流れを確認し、次に妻・子・孫の口座へと視線を移しました。「この預金の入金はどこから?」「この出金はどなたが?」質問は細かく、とことん緻密です。

調査官が最も注目したのは、「通帳の管理者は誰か」という点でした。形式上は妻や子どもの名義であっても、通帳や印鑑を被相続人が持っていれば、それは実質的に本人の財産とみなされます。いわゆる「名義預金」に該当する可能性が高くなるのです。

今回のケースでは、6人の孫へ3年がかりの合計2,000万円の贈与と、妻の口座にある4,000万円が焦点になりました。

孫への贈与は、一部に贈与契約書がなく、調査官は「名義預金ではないか」と主張し、一時は相続財産に加算するという姿勢を示しました。しかし筆者が、「お孫さんが管理する口座に移しており、実際に学費などに使っているので名義預金ではありません」と説明。贈与契約書がない部分についても、通帳の管理状況やお金の使用実態を丁寧に確認することで、最終的に贈与は成立していたと判断され、修正申告の必要はありませんでした。

一方、妻の4,000万円については、何度もやりとりが繰り返されました。「収入のない専業主婦が、なぜこれだけの預金を持っているのか」「この口座を管理していたのは誰なのか」「実際には夫の資産(土地を複数回売却した際の収益)を移したのではないか」――。調査官の質問は柔らかい言葉ながらも、核心を突いています。

妻も緊張していたのか、最初は「どうだったかな……」「あまり記憶が……」と曖昧な返答をしていましたが、話を聞いていくうちに、代々地主だった妻の両親からもらったお金で、ずっと使わずに貯めていたものであることがわかりました。具体的な証拠はなかったものの、10年以上ほとんど動きのない口座であり、通帳の履歴からも長期にわたる蓄積であることが確認できました。結果として、税務署も「4,000万円は夫とは関係がなく、妻自身の資産である」と認定し、税務調査は終了しました。

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