◆実はバツイチで、子どもがいた。微妙なサバ読みも
「離婚の2年ほど前から、元夫が生活費を一切入れなくなりました。文字通り、ゼロ円です。私は生活に困り、わずかな自分の貯蓄で生活をすることになりました。所有しているものを売却したり、実家に頭を下げてお金を援助してもらったりもしました。なぜお金を入れなくなったのかを元夫に問いただしてみると、『運用を任せていたプロ投資家がいたが、資産が溶けてしまった』としか言いません。確かに交際中も、海外にいる女性投資家に運用をお願いしているのだとは言っていました。けれども、写真でみた1億円が本当にあったのかさえ、今はわかりません」
不可解なことなら他にもある。元夫の職業は、交際期間中に頻繁に変わった。出会った当初はテレビ関係の会社社長、だが雇われた時期もあり、何をしている人なのか判然としない。極めつけは、不動産取引のために取り寄せた戸籍で発覚した。
「彼は私と出会う以前に離婚歴があり、しかも子どももいました。さらに、10歳上だと言われていた年齢は、12歳上でした。なぜそんな細かい嘘をついたのか、まったく見当もつきません」
◆恐怖を感じた元夫の弁明

「まったく悪びれた様子はありませんでした。彼が言うには、『ずっと後ろめたかった。でも、後ろめたさがあったから、君を大切にできたんだ』と。全然意味がわからないうえに、恐怖を感じました」
その後、別居を経て、離婚に至った。一連の逆境にもかかわらず、バツイチ女さんは今年1月、難関士業に合格した。現在は開業準備を進めているところだ。今後の人生の展望についてこう話す。
「人生どうしよう、というのが率直な思いですよね。私はこの20年間、元夫としか交際していません。ずっと女子校育ちで、男性というものがわからないんです。あれほど苦しめられた戸籍と頻繁に向き合う士業に就いたのは、我ながらなかなかの皮肉だなと感じますが、これから生き方を模索せねばと思うところです」
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したり顔で「違和感を持った人とは離れよ」と諭す人がいる。おそらく模範解答なのだろう。だが世の中には、生育歴や学生時代の挫折で負った傷によって、不幸になっていく自分に鈍麻してしまう人も少なからずいる。新たな道を歩みだしたバツイチ女さんの人生が澄み渡るよう切に願う。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

