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中小企業M&Aを食い物にする買収スキームの現実…ルシアン事件に見る制度の盲点【M&A弁護士が解説】

中小企業M&Aを食い物にする買収スキームの現実…ルシアン事件に見る制度の盲点【M&A弁護士が解説】

日本における中小企業の経営者高齢化や後継者難の進行に伴い、いわゆる「第三者承継」であるM&Aが急速に拡大しています。経済産業省が主導する中小企業M&A支援施策を背景に、M&A仲介会社の業界参入も相次ぎ、年間の中小企業M&A件数は急増しています。しかしながら、その裏側で「本来のM&Aの理念や手続を逸脱した取引」による深刻なM&Aトラブルが急増している現実があります。中でも2024年のゴールデンウィーク明けに初めて朝日新聞により報道され全国的に注目されたのが、いわゆる「ルシアン事件」です。※本記事は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士、土屋勝裕氏の書き下ろしです。

37社を傘下に収めた“買収屋”──実態なきM&Aが招いた惨状

「ルシアン事件」とは、投資会社であるルシアンホールディングス株式会社が、全国の中小企業を多数M&Aした上で、M&A後にその会社から資金だけを抜き取り、企業を放置・倒産に追い込んだ一連のM&Aトラブルを指します。

同社は2021年の設立以降、急速にM&Aを繰り返し、2年間で37社を超える企業をM&Aしました。業種は食品製造、建設、不動産、製造業、小売業など多岐にわたり、山形県、鳥取県、千葉県など地方都市の企業が中心でした。いずれも後継者不在に悩む企業が、資金力のある買い手としてルシアンホールディングスにM&Aしてもらうというケースでした。

しかしM&A後、同社の経営実態はほとんど明らかにされず、役員派遣も行われないまま、各社の預金口座から資金が急速に引き出され、経理部門は不在、従業員の給与支払いも滞るといった深刻な経営放棄が発生しました。

やがて2024年1月、ルシアンホールディングスの代表者が関係者との連絡を絶ち、行方不明となったことを契機に、傘下企業の連鎖的な倒産が表面化しました。信用調査機関の報告によれば、確認されているだけで15社以上が破産や民事再生を申請し、さらに20社以上が事業停止状態にあるとされ、全国で少なくとも37社が事実上の経営破綻に追い込まれたとみられています。

M&A仲介会社による「支援の空白」──制度の限界が露呈

本件で特に問題とされたのが、M&A仲介に関与した複数のM&A仲介会社が、買収者の資金実態や経営能力を十分に確認せず、支援も行わなかった点です。売却を希望する企業とルシアンホールディングスとの間に立ち、M&A契約を成立させたM&A仲介会社は、M&A後のトラブルに際して関与しませんので、相談窓口もなかったことで、被害企業は孤立しました。

そもそもM&A仲介会社は法的には代理人ではなく、取次・媒介業務を行う立場であり、買収者の保証や履行責任を負うものではありません。しかしながら、情報の非対称性が極めて大きいM&Aの現場において、「資金力がありそうな投資会社」との印象だけで契約を進める構造は、脆弱であることがわかったといえます。

一方、ルシアンホールディングスの代表者個人も、過去に複数の企業に関与しながら資金の引き抜きを繰り返していたことが明らかになっていますが、その情報が十分に共有されていませんでした。

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