新しいものも伝統の一部に
初代の歌舞伎座が誕生したのは1889年。空襲など災禍を乗り越え、2013年に第5期となる現在の歌舞伎座が開場した。銀座と歌舞伎はともに伝統と革新を重んじてきたと語る。
「銀座は古きよきものを残し、新しいものも取り入れていく街です。近年に建った綺麗なビルも伝統の一部となって街を華やかにしています。銀座への安心感は揺らぎません。歌舞伎も一緒で、古典演目を大事にしつつ、新作も生み出す。新作歌舞伎は、先人の知恵をいただきつつ、後世の人たちに古典を知っていただくための試みです。ブラッシュアップしていくなかで、やがて古典となっていきます」
自身も古典の継承に力を注ぎながら、『マハーバーラタ戦記』『風の谷のナウシカ』『ファイナルファンタジー X』など新作歌舞伎を生み出してきた。
「上演が途絶えている古典を復活させたいと思っていますし、同時に新作も準備中です。新しく作り上げるのに4、5年はかかりますね」
今、歌舞伎界を描いた映画『国宝』が大ヒット中だ。吉田修一による原作小説のオーディブル版でナレーターを担当している。
「『国宝』を通して、歌舞伎は『守る』『見いだす』『育てる』の3つの概念で成り立っていると改めて感じました。その家に生まれた者は、先人たちとの比較のなかで、自分には何ができるのかを考えながら技芸を磨きます。よく『抜擢(ばってき)』という言葉が使われますけれども、それは芝居への思いや芸に対する姿勢、人間性も含めてその人を見いだし、育てていくということ。血筋かどうかではなく、歌舞伎を慈しむ心と育てる環境が歌舞伎全体を支えているのだと思います」
12月、京都・南座では、『国宝』の中でも印象的な『鷺娘』を舞う。六世菊五郎が、バレエの『瀕死の白鳥』に影響を受けて作り上げた演目だという。映画をきっかけに初めて劇場を訪れる人たちもいるだろう。 「歌舞伎を観るのに勉強はいりません。大まかに筋をつかんで観ていただければ、自然と言葉も入ってきますし、色彩や音楽を楽しめます。気軽に足を運んでいただければ幸いです」
