
ミネオさんと、モトコさん夫婦が営む、岡山市のカレーの店『QUIET VILLAGE CURRY SHOP』。
“静かな村”というポエティックな店名の由来を知ったのは、通い始めてしばらくしてから。


カウンターだけの小さな空間に椅子が並び、客同士は声を張らずに座っている。誰も滞在していることを誇示しない。食べて、ひと息だけついて、静かに去っていく。客側に共有されている完成された礼儀のようで、気持ちがよい。静かな村って、なんてぴったりな名前なのだろう。


あとになって、「Quiet Village」という曲から名をもらったと聞いた。
ご夫婦が大好きな、マーティン・デニーの代表曲。
そう知ってから聴くと、ああ、これはあの店の空気そのものだと感じ入った。音楽が店の輪郭に寄り添っている。




店内には、ミネオさんが大ファンだという美術家・大竹伸朗さんのポスターや、作品集が所狭しと飾られている。なんと、ご本人が噂を聞いて数度訪れたこともあるそう。いつもクールなミネオさんが、静かに興奮した様子で教えてくれた。
デニー氏はもうこの世にいないけれど、きっとこっそり来てくれているような気がする。
外国の長い旅から戻った日の翌日、いつもの3種盛りを口に運んだ。そのときの感覚が忘れられない。


ホームに帰ってきた実感は、空港でも駅でもなく、この場所で訪れた。わたしを、この街にそっと繋ぎ止めてくれる味。
カウンター越しに、モトコさんやバイトのリョウコとちょっと話して、さっと帰る。ただいま!
多いときは週3日以上来ている。わたしが通算で平らげた皿数は、なかなかなものだろう。
ここのカレーは油を使っていないから、もたれず、味噌汁のようにさらりといけちゃうのだ。
岡山市のまんなかにある、静かな村。
20年以上変わらず、淡々と出されるカレーが、わたしたちを繋ぎ、癒やしていく。ずっと元気で、そこにいてね!

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写真家 中川 正子

なかがわ・まさこ/神奈川・横浜生まれ、千葉・船橋育ち。2011年に東京から岡山へ拠点を移す。雑誌、書籍など様々な媒体で活動し、写真集も多数出版。近年は執筆も行う。はじめてのエッセイ集『みずのした』(くも3)を2024年に発表。

