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どこまでもクリーンな一杯を追い求めて。デザインエンジニア、ダグラス・ウェバーさんのコーヒーの楽しみ方。

どこまでもクリーンな一杯を追い求めて。デザインエンジニア、ダグラス・ウェバーさんのコーヒーの楽しみ方。

コーヒーとお茶にまつわるBetter Lifeのヒントを集めた、&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、デザインエンジニア、ダグラス・ウェバーさんのひと息つく時間、そのスタイルを訪ねました。

2014年から革新的なコーヒーツールを世に送り出す〈Weber Workshops〉のオフィス兼ギャラリー。朝に一杯、仕事の合間に一杯、昼食後に一杯が日々のコーヒールーティン。
コーヒーはクリーンさを重視。プロセスはウォッシュト、焙煎度合いは中煎りが好み。
抽出器具「BIRD」。ハンドルを回し、バスケットを上げることで下部に真空を生み、コーヒーを抽出。フィルターは金属とペーパーの併用で、雑味が極めて少なくなる。

究極の一杯を淹れるための、ダグラスさんのコーヒーツール。

〈La Marzocco〉のエスプレッソマシン
オフィス兼ギャラリーでもほぼ毎日エスプレッソは淹れる。選んだのはパワーはありながら、サイズ感がコンパクトな「GS3」。「シンプルかつ頑丈で頼りになるマシン」
〈Weber Workshops〉のエスプレッソツール
エスプレッソ抽出のサポートツール「MOONRAKER」。器具を回すと針金が付いたギアが回転。フィルターバスケット内のコーヒー粉が撹拌され、理想的な抽出を実現。
〈Weber Workshops〉のグラインダー
自社のフラッグシップともいえるプロダクト「EG-1」 。挽き残りがない設計になっており、1杯ずつ挽いて淹れるのに適している。工具なしで分解でき、日々の掃除も簡単。
〈Olympia Express〉のエスプレッソマシン
自宅にあるのは1982年製で、ダグラスさんがアップル在職中から使い続けているもの。レバーのみを操作するシンプルな構造。約40年前のマシンだが性能も申し分ないと話す。
〈金網つじ〉の茶こし
手作業で作られる茶こしは、豆をグラインダーに入れる前、静電気を防ぐため霧吹きをかける際に活用。「丁寧なつくりで、使うほどに味わいが出る」とダグラスさん。
〈Weber Workshops〉のブリュワー
Brew In Reverse Direction(逆方向への抽出)の頭文字から名付けられた「BIRD」。使い方は簡単で、誰が淹れても、豆のポテンシャルを最大限引き出せるのが魅力。
〈ROEST〉のサンプルロースター
ノルウェーの熱風式焙煎機。熱風式で焙煎したコーヒーは「ロースト感が少なく、クリーン」とダグラスさん。生豆は同じ糸島市にあるロースタリー『UNIDOS』にて購入。
〈高麗窯〉のカップ
糸島市にある唐津焼の窯元。初代が手がけたカップは荒々しい雰囲気が気に入っている。ダグラスさんはかつて九州大学に留学経験があり、その時期陶芸に傾倒していたそう。
〈Weber Workshops〉のビーンズセラー
豆の保存用に開発。キャップに独自のバルブ機構を備え、豆から出る炭酸ガスを外に排出。一方、外部からの酸素はシャットアウト。写真のガラス製ほかプラスチック製も。

プロも愛好家も満足する道具、その背景に込められたもの。

 コーヒーが好きすぎて、従来にない発想から、最高のプロフェッショナルを満足させる精密な道具を作りたい 。ダグラス・ウェバーさんのそんな決意から誕生したのが、福岡県糸島市を拠点とする〈Weber Workshops〉だ。代表作の電動グラインダー「EG‒1」は、世界のトップバリスタたちが競技の現場で高く評価し、瞬く間に注目を集めた。その後も同社の製品は、最高水準の現場を支える〝プロ仕様〞でありながら、使い手の経験を問わずに豆のポテンシャルを最大限に引き出すツールとして世界中で愛用されている。

 アップル社でデザインエンジニアとしてキャリアを積んだダグラスさん。〈Weber Workshops〉のプロダクトは、技術者としての精緻な設計思想と、日常に寄り添う道具としての使いやすさが共存する点に特色がある。例えば「EG‒1」は1目盛5ミクロン単位の粒度調整を可能にし、バリスタがレシピを緻密に組み立てられる革新性を備えている。同時に、挽き残しをほぼゼロに抑える設計は、常に風味の純度を保てるだけでなく、コーヒー豆を無駄にしない 生産者へのリスペクトを体現しているのだ。

 加えて新作「BIRD」は、独自の抽出構造によって、誰でも安定した味を楽しめる。だがダグラスさんが求めている本質は「簡単さ」ではなく、「トップレベルの技術を誰もが享受できるようにした」という点にある。プロフェッショナルを満足させることを目的に作られた道具は結果、愛好家にもデイリーな道具として受け入れられている。

 製品のどれもが、日々のメンテナンスを前提に半永久的に使えるよう設計されているのも特徴だ。「機械は正しく手入れすれば長く使えます。それは環境に優しいだけでなく、年月を重ねるごとに愛着も深まるのです」とダグラスさんは語る。さらに彼の関心は、豆のトレーサビリティだけにとどまらず、〝道具を誰がどこで作っているのか〞という点にまで及ぶ。豆の生産地の多くは政情が不安定なことに比して、〈Weber Workshops〉の製品は台湾を中心とした国々で製造されており、ユーザーが支払ったお金が独裁体制の資金源になることがないよう、配慮されている。 「支払ったお金が最終的にどこに還元されるのかまで考えたい」という信念が、製品づくりの根幹を成しているのだ。

 工芸品を生活の随所に取り入れるなど、精密に設計されたマシンとは対を成すようなものづくりも愛する。 「例えば、オフィスで愛用している唐津焼のカップは登り窯で焼成した際に生まれたムラや、手仕事を感じるフォルムが気に入っています。その余白がいいんです」

 選び取った豆や道具の背景にある物語、人への敬意……、一杯のコーヒーに込められたダグラスさんの思想から、彼の理想とする豊かな暮らしが垣間見えるような気がした。

エスプレッソとミルクを1対1で割ったコルタードがダグラスさんが好んで飲むミルクビバレッジ。
自然豊かな環境にある〈Weber Workshops〉のオフィス兼ギャラリー。
オフィスから森の中を歩いて2分ほどで海に。コーヒー片手に気晴らしによく訪れるという。
フランス在住のイラストレーター、Mathieu Persanが描いたグラインダー「EG-1」のイラスト。デヴィッド・ボウイの楽曲をヒントに。
電動グラインダー「EG-1」は従来にはない構造で世間を驚かせた。
ダグラスさんのプライベート空間に並ぶコーヒーツール。アップル時代の元同僚が手がけた〈Syng〉のスピーカーで好きな音楽を流しながらコーヒーを楽しむ。

ダグラス・ウェバーデザインエンジニア

カリフォルニア出身、福岡県在住。アップル在職中はiPod nanoやiPhoneの開発に携わる。現在、自社でのエスプレッソマシンの開発に注力中。

photo : Koji Maeda text : Tsutomu Isayama

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COFFEE & TEA / コーヒーとお茶と、わたしの時間。&Premium No. 144

お気に入りの一杯を手に、ほっとひと息入れる。それは暮らしのなかの句読点のような、心を整えてくれる時間です。深まる秋、今号のテーマは「コーヒーとお茶の時間」。コーヒー、紅茶、日本茶、中国茶、ハーブティー、野草茶…。スタイルのある14組のコーヒー&ティーライフから、おいしく淹れるコツ、使い心地のいい道具や読書案内、訪ねたい名店まで、コーヒーとお茶にまつわる Better Lifeのヒントを集めました。

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配信元: & Premium.jp

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