
「いいモノを安く提供する」——それは、日本のビジネスにおける長年の“美徳”とされてきました。しかし、この思考こそが、30年にわたる経済の低迷と、給料が上がらない根本原因だとしたら、どうでしょうか。なぜ、リッツ・カールトンでは「100円のコーラ」が1000円でも売れるのか。その答えは、安易な価格競争から脱却し、「価値」で儲ける高価格戦略にあります。永井孝尚氏の著書『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、ある若きビジネスリーダーの物語を通して、多くの日本企業が見失ってしまった“値付け”の極意と、利益を生み出すための価格戦略の本質を解き明かします。
登場人物紹介
日吉 慶子(ひよし・けいこ)
本作の主人公。中小IT企業「UDサービス」の若手社員。「会社を世界一にする」という情熱(アニマルスピリット)を持つが、空回りしがち。
マルクス・ハマー
日吉の部下となる米国人のマーケティング専門家。「マーケティング界のロックスター」の異名を持つ。日本のビジネスを研究するために来日。
小杉 武蔵(こすぎ・むさし)
日吉と同期入社の同僚。内向的な性格で、情熱的で突っ走りがちな日吉に振り回されながらも、冷静な視点でチームを支える。
商談成功の先に立ちはだかった「価格設定」の壁
珍しく緊張して歩いていた日吉慶子は、バリューマックス社のオフィスを出てホッと息をついた。
(宮前さんって、オーラがあるなぁ)
ちょうど得意先のIT企業・バリューマックスで副社長を務める宮前久美(みやまえ・くみ)との商談を終えたところだった。宮前は数多くの斬新な製品やサービスを企画・開発して大ヒットさせたIT業界のトップ経営者であり、日吉が尊敬する人物の1人である。
日吉が宮前に『影武者』を説明すると、宮前は即断即決だった。
「『影武者』いいわね! 導入するわ。井上クンとロンロン、すぐに進めて。で、おいくらなの?」
(そう言えば、価格は考えてなかったな……)
オフィスに戻った日吉は、マルクスと小杉に経緯を説明した「バリューマックスはすぐ買うわ。価格を決めなきゃ。新商品は高いとお客は買わないから、安くしなくちゃね」。
するとマルクスの顔が徐々に険しくなって紅潮してきた。
「なぜ日本人は安くしたがるんデスカ! 価格を思い付きで決めてはダメデス!」
頭をブンブン振って普段以上に大声をあげるので、日吉は慌てた。
「わ、わかったから。何が問題なの?」
「価格戦略が利益を生むからデス」
日吉は目が点である。
[図表1]わずかな値引きで利益は激減する 出典:『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より抜粋
