いつまでも輝く女性に ranune
リッツ・カールトンでは「100円のコーラ」が「1000円」でも飛ぶように売れる本当の理由…多くの日本企業が知らない“値付けの魔術”

リッツ・カールトンでは「100円のコーラ」が「1000円」でも飛ぶように売れる本当の理由…多くの日本企業が知らない“値付けの魔術”

「安さ」で勝てるのは、「その業界で1社」だけ

翌朝、すっかり考えが変わった日吉は、マルクスと小杉に昨晩の話をした。「つまり、単なる安売りだけではダメってことね」

「そうデス。少々高くても、価値を求めるお客は必ずいマス

すると日吉は首を傾げて尋ねた「でも、なんで安売りの方が難しいの? 安さで成功している会社、多いでしょ。『お、ねだん以上。』のニトリは基本的に値上げしないし、チョコザップも2980円よ。圧倒的に価格を下げて、たくさん売って儲ける戦略もアリなんじゃないの?」。

「安易にニトリやチョコザップのマネをしてはいけマセン」マルクスはそう言うと絵を描き始めた。

「ニトリとチョコザップは、どこよりも低コストにする『コストリーダーシップ戦略』を極めたから、安さで勝てるんデス。これで勝てるのは業界で1社だけデス」

「1社だけ? 具体的にどうするの?」

ニトリとチョコザップが徹底した「コストリーダーシップ戦略」

ポイント1.「どこよりも多く」、「どこよりも速く」つくる

「方法は2つデス。1つ目は、どこよりもたくさんつくって売れる仕組みをつくりマス。生産量と販売量が多いと、商品1個当たりのコストが下がるンデス。ニトリは世界1000店舗で家具をたくさん売ってマス。そこで原材料から製品まで一貫してつくる大工場をベトナムに設けて、徹底してコストを下げてマス。だからニトリはどの会社よりも安く家具をつくれマス。これを『規模の経済』と呼びマス」

マルクスはさらに新しい絵を描いた。

「もう1つありマス。ボクたちは何かやる時、1回目より100回目の方が慣れて速く確実にできマス。会社も製品を数多くつくれば、経験で速く安くつくれマス。これを『経験曲線』と呼びマス。ニトリが安くできるのは、規模の経済と経験曲線を極めたおかげデス」

出典:『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より抜粋 [図表2]「コストリーダーシップ戦略」で、低コスト構造をつくる 出典:『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より抜粋

日吉は「ニトリ、恐るべしね」と納得した。

ポイント2.「やらないこと」を決める

「2つ目の方法は、『やらないことを決める』ことデス。チョコザップは店舗スタッフの常駐をやめて、完全無人店舗デス。シャワーもプールもやめて、水回り工事も不要デス。色々やめたから低コストなんデス。他にもありマス」

マルクスは絵に「QBハウス」と書いた。

「日本の散髪店は4000円で、1時間かかりマス。QBハウスはカットに特化して、洗顔・ひげ剃り・予約をやめてコストを下げて、時間は10分、料金1400円。『やらないこと』が明確デス。こうして、低価格戦略では業界一番の低コストを目指しマス。勝てるのは業界で1社だけデス。難易度が高いんデス」

「高価格戦略」をやりたがらない日本企業

「低価格戦略がスゴく難しいことはよくわかったわ」

「高価格戦略は違いマス。ターゲットのお客が必要な価値を提供すればお客は買いマス。業界で複数の会社が勝てマス。でも日本企業は高価格戦略をやりたがらない。ホワーイ!」

出典:『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より抜粋 [図表3]低価格戦略よりも高価格戦略の方が実現しやすい 出典:『【新】100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)より抜粋

マルクスはそう叫ぶと、頭を抱えた。

「日本で驚いたのは、品質がいいのにすごく安いことデス。この前、浅草のかっぱ橋道具街で、海外で数万円もするような高品質の包丁が数千円デシタ。オーマイガッ! なぜそんなに安く売るンダ!

日吉が首を傾げた。「なんで? 『いいモノが安い』って、いいことなんじゃないの?」

「ノー! お客に価値があるいいモノは、価値に見合う価格にするべきデス

マルクスは(『いいものを安く』という日本人病、思ったよりも重症デス)とつぶやき、息を整えると、「こんな話がありマス」と話し始めた。

売れない商品の価格を「2倍」にしたらなぜか“完売”…「価格の品質表示機能」の魔法

「米国の土産物店で、装飾品のターコイズが売れませんデシタ。店主は数日間出張する際に、店番に『価格を1/2にして』と書き置きして出かけマシタ。帰ってきたら完売デシタ。でも、売上がなぜか多いんデス。店番に尋ねたら『価格を倍にしました』。店番が指示を間違えて2倍の価格にした途端、完売したんデス」

小杉が「なんでそうなるんだ?」と尋ねた。

「ターコイズの価値なんて誰も知りマセン。最初にターコイズが売れなかったのは『安物』と思われたからデス。いいモノでも安いと『安物』と思われマス。価格を2倍にしたら、お客に『この価格だから高級品』と思われて、売れたんデス。価格が高いと『いいモノ』と思われマス。これを価格の品質表示機能といいマス」

マルクスは両手で頭を抱える。

「コレがわからないから、日本は貧しくなったんデス! 日本は30年間、デフレで物価が下がり続け、日本企業は値引きしか考えなくなり、利益確保のために給料も削った結果、日本は貧しくなりマシタ。『いいモノが安いのは、よいこと』と信じて疑わず、マーケティング戦略も価格戦略も考えナイ。貧しくなったのは、当然デス。いいモノは『高いけどさすが』と言われる高価格で売るべきなんデス!」

ここまで言われても、日吉はまだ納得しなかった。

「でも、高い価格を付けるのって勇気がいるのよね」

コーラを「1500円」でも購入する消費者の心理

スーパーで100円、カラオケで500円、山頂で1000円…場所でコーラの値段が変わるワケ

価格が高いかどうかは、お客さんの状況次第デス。たとえばコーラもそうデス」

「コーラなんて、普通100円とか150円よ。この前、近所のディスカウントストアで、小サイズが40円だったわ。安くしないと誰も買わないわよ」

「ケイコサン、この前、カラオケ行きましたヨネ。インスタ見まシタ」

「わっ。私のプライベート、しっかりチェックされてるし。あの日は土曜で、高校時代の親友たちとカラオケでオールだったわ」

「カラオケ店では、コーラは300円から500円デス。高いデスカ?」

「そんなの普通に頼むわよ。喉も渇くし、カラオケも楽しみたいし。……あれ?」

マルクスはニコッと笑った。

「同じ液体でも、コーラほど状況で価格が変わる商品はアリマセン。登山すれば、山頂では500円デス。中には1000円のコーラもアリマス」

「いくらなんでも、それは高過ぎ。マルクス、あなた騙されているわ」

「ノー! 10年前に初めて来日してリッツ・カールトンに泊まった時、ルームオーダーで飲んだコーラデス」

日吉は(あの超高級ホテルに? この人、意外とセレブ?)と思いながら尋ねた。「それって、何か特別なモノを入れたコーラなんじゃないの?」

「ノー。中身はディスカウントストアのコーラとまったく同じ液体デス。でも、最適な美味しい温度に冷やされて、ライムと氷を添えた最高に美味しい状態で、グラスで運ばれてきマシタ」

ここで小杉が尋ねた。「つまりそのコーラは、マルクスには1000円以上の価値があったってこと?」

「イエース! それまで飲んだ中でもっとも美味しいコーラデシタ。リッツ・カールトンが『最高に美味しいコーラが飲める体験』という価値をつくっているんデス。価格を上回る価値が提供できれば、お客は喜んでお金を払いマス。最近もリッツ・カールトンに泊まったら、ホテル特製『ザ・リッツ・カールトン コーラ』というクラフトコーラがメニューに追加されてマシタ。1500円デシタ」

「さらに価値を上げたのか。リッツ・カールトン恐るべしだな」と小杉が言った。

高価格戦略で「平均年収2000万円」を実現したキーエンス

「高価格で売ることは、社員の給料に直結しマス。日本のメーカーのキーエンスは平均年収2000万円デス。これはキーエンスが顧客の中小製造業に、価値ある商品を高価格戦略で提案してきたからデス」

「キーエンスって、どんな提案をするの?」

「製造業では、部品寸法を測る作業がありマス。これまで社員が半年から2年間の訓練を受けて、毎回数十分から数時間かけて測ってマシタ。手間も時間もおカネもかかりマス。そこでキーエンスは、部品を置いてボタンを押せば、部品を撮影して画像を自動計算して、誰でも数秒で正確に寸法を測定できる画像寸法測定器をつくりマシタ」

「それって、毎日何回も測定すると、すごいコスト削減になるんじゃない?」

「イエス! 年間で数千万円のコスト削減ができて、開発スピードも上がりマス。画像寸法測定器の価格が少々高くても、お客は喜んでキーエンスから買いマス」

「1000円のコーラと同じで、提供する価値が価格を上回っているワケね」

「イエス! キーエンスは高い付加価値の提案をするために、提案力を磨き続けてマス。だから高収益になって、高い給料を実現できるんデス!」

日吉が「あ、そういうことか!」と声を出した。

「だからマルクスは、初めてトライアンフと商談をした直後に『すべての原因はマーケティングをわかってないことだ』って言ったのね。『安く売ろう』と考えるから、回りまわって私たちの給料も安くなる。そんな貧しくなった日本に若者も見切りを付けて、海外に出稼ぎに行ってしまう。考えてみれば当たり前の話ね」

「イエース! お客は自分でも気付かないうちに課題をたくさん抱えてマス。その中でも特に痛みが大きい課題を解決すれば、価格が少々高くてもお客は喜んで買いマス。これが『価値創造』デス。日本人は価値創造して給料を上げることを考えるべきデス! 『マーケティングなくして、経済成長なし』デス!」

「『影武者』も、情シスが気付かないムダなコストを削減する高付加価値の提案だから、それに見合う値付けが必要ね。マルクス、何かアイデアある?」

マルクスは「そうデスネ……」としばらく考えた後、口を開いた。

「サブスクで値付けをするといいデス」

サブスクを成功させる「3つ」の鉄則

「流行のサブスクね。私も音楽聴き放題のスポティファイや、ウーバーイーツで配送料ゼロ円のウーバー・ワンを使ってるわ。でもそれって、『安くて使い放題』にするってことなの?」

「ノー! サブスクで『安くて使い放題』だけを狙うと、失敗しマス」

日吉が「え? そうなの?」と驚いた。

サブスクを成功させる『3つの鉄則』がありマス。ケイコサンが音楽聴き放題やウーバーイーツのサブスクを使おうと思ったのは、『安いから』だけデスカ?」

「うーん、『音楽聴き放題っていいな』とか『ウーバーイーツの頼み放題って便利ね』と思ったからかな。次に価格を見て『お得』と思って使い始めたわ」

鉄則1『顧客に「どうしても使いたい」と思わせる』がこれデス。サブスクのお客はまず『これいいな』と思って、次に『安いから入ろう』と考えマス。最初にアピールすべきはお客を惹き付ける圧倒的な価値、そしてその次に始めたくなる安い価格デス」

「価格のアピールだけではダメってことなのね」

鉄則2は『顧客体験を常に高め続ける』ことデス。サブスクで怖いのは、お客が飽きて解約することデス。そこで顧客体験を高め続けて継続してもらうんデス」

「確かにサブスクは解約もカンタンだからね」と小杉が言った。

鉄則3は『収益化して継続する』デス。サブスクは月々の売上が少ないので、利益を出すにはお客を何人集めればいいのかを考える必要がありマス。長く使うお客の数が増えれば売上が安定して、お客の人数がさらに増えて売上がコストを超えれば利益が上がり、黒字になりマス」

一気に説明した後、マルクスはまとめた。「つまり、サブスク成功のカギはシンプルデス。新規のお客を獲得し続けて、顧客の解約を徹底防止することデス。黒字化するまでは大変デス。でも黒字化すれば、安定的に売上が入るようになり、さらにお客が増えると高収益になりマス」

「成功までの道は長いけど、ちゃんとやり続ければ大成功するってことね」

「イエス! 『影武者』は顧客サービスを向上させ続けて提供する必要がありマス。だからサブスクと相性がいいんデス。そして、成功のカギは、サブスクの総売上が全体の運営コストを上回って、利益が上がるまでの投資期間を乗り切れるか否かデス」

日吉は納得した。

「そうなると価格はすぐ決めずに、ちゃんと検討した方がいいわね。これはマーケティングの基本戦略だから、皆で考えましょう。バリューマックスの宮前さんには『価格は検討中なので、当面は無償で使っていいですよ』って言っておくわ」

永井 孝尚

マーケティング戦略コンサルタント

ウォンツアンドバリュー株式会社 代表

あなたにおすすめ