
◆タイ人少女人身取引被害
売春(買春)の取り締まりを巡ってはこれまで幾度となく議論されてきたが、私はその重要性を理解しながらも、どこか自分とは距離のある話のように感じていた。しかし、10月に報じられた事件、タイ出身の12歳の少女が日本で“売らされていた”というニュースを見た瞬間、その距離は一気に消え去った。
12歳だ。僕の子どもは10歳。そうやって我が子の年齢と照らし合わせた親も多いだろう。日本語も話せない12歳の少女を母親が自ら日本に連れてきて、子どもだけを置いて去っていったという。少女は都内の違法マッサージ店で接客、性的行為を強要されていたと。彼女が稼いだ63万円は、母親に半分振り込まれ、あとの半分は店の経営者が受け取った。経営者は逮捕され、母親にも逮捕状が出たという。
事件そのものも衝撃だが、私が震えたのは、これが“特殊なケース”ではなかった可能性が高い、ということだ。調べる中で、さらに背筋が凍る数字を目にした。’22年までの10年間で、年間にして1万〜1万5000人ものタイの女性や子どもが、売春目的で日本に人身取引されていたという報道も目にした。そんな人数が。その中にはやはり子どもも含まれていた。もはや今回の事件は氷山の一角どころか、氷山そのものの存在を突きつけてくる数字だ。日本はこの分野で“最大の市場”と言われているという。
◆日本は“子供を買う国”だという認識
十数年前、私は『闇の子供たち』という小説を読んだ。タイで子どもが売られ、搾取される地獄のような現実を描いた作品で、読み終えたときしばらく動けなかった。だが、そのときは“どこか遠い国の悲劇”として読んでいたのだと思う。しかし実際には──その「遠い国の闇」は、日本の需要によって“こちら側”にまで運ばれてきていたのだ。需要が消えない限り、少女はまた売られ、店はまた作られる。日本は子どもを買う国だと思われているのだろう。今回の事件も、そうした日本側の需要に支えられて起きたと考えるべきだ。タイから年間1万人以上もの女性や子どもが“市場”として送られてくる国のままでいいのか。折しも、11月11日には高市早苗首相が「売春防止法」に触れ、「買う側にも処罰を広げる必要がある」と発言している。これまで、社会の目も曖昧だった「買う側」の取り締まりの強化について、改めて考えるべきだろう。
『闇の子供たち』を読んで震えていたあの日の自分に伝えたい。その闇は、自分たちの足元にもあったのだと。日本が本当に人身取引の連鎖を断ち切れる国になるのか。今はその岐路に立っているのかもしれない。

【鈴木おさむ】
すずきおさむ●スタートアップファクトリー代表 1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家となり、その後32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。現在はスタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行っている

