◆うつ病が躁病に転じ、民家の屋根に飛び降りたことも
2020年11月になると、うつ病が躁病に転じた。自分は神から選ばれた存在なのではないか――そんな妄想に取りつかれて、気が大きくなる。ときには他人に多大な迷惑をかけることもあった。「今思い返すと全然意味がわからないのですが、『自分はエージェントという組織に入っていて、いくらお金を使っても領収証を切れば全部タダになる』という妄想から抜けなかったんです。だから分不相応なホテルに意味もなく泊まったり、通行人にお金を配って歩いたりしたこともあります。
もっとも他人に迷惑をかけたのは、夜遅くに京都まで出かけ、とある映画館の屋上から、近隣の民家の屋根に飛び降りたことです。ものすごい音が鳴って、住民の方が泣きながら出てきたのを覚えています。そのとき私は、『月から降りてきました』みたいなことを言ったと思います。当然、警察を呼ばれて、事情聴取を受けました」
違法薬物の使用などの事実はなく、たまたま近くに懇意にしている会社社長もいたことから、その日は釈放とされた。事件の報せを受けた母親が迎えに来てくれたが、「偽物の母親だと思ったから」という理由で脱走。翌日から精神科病院に強制入院となった。
◆現在は「早稲田大学への復学を考えている」
篠塚さんはその後も、道端で上裸で歌を歌う、入室したネットカフェ料金を支払えないなどの問題行動を繰り返し、措置入院を経験した。2021年6月、これまで休学していた早稲田大学を中退した。「母には泣かれました」と肩を落とす。グループホームへ入居し、生活保護を受けながら生活した期間もあった。現在、篠塚さんは映画の売り上げの一部がベーシックインカムの原資になるプロジェクト『ベーシックインカムシネマズ』を運営している。背景には、生き方に悩んだとき、自身もまた毎月20万円を出資してもらいながら映画を作った経験がある。次は誰かにその経験を引き継ぎたいとの思いからだ。ゆくゆくはベーシックインカムをこの国に根付かせたいと話す。野望ならもう1つある。
「早稲田大学への復学を考えています。途中で学ぶことを辞めてしまったけれど、大学には膨大な学問の蓄積とさまざまな人材の集積がある。もう一度きちんと向き合いたいと思っています」

