こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
クリスマスシーズンや年末年始の書入れ時を迎え、立ち仕事が長く続く予定のあなた。今日は「立ち仕事向け」の靴を紹介します。さきに結論を言っておくと、解決策は2つあって、①そもそも立ち仕事に強い靴を選ぶ。あるいは②今持っている靴にインソールを合わせる、の2パターンがあります。予算と自身の悩み別で参考にしてみてください。
そもそも立ち仕事で疲れるのは、まっさきに足の裏です。すこし専門的に順序だてると、足の裏が疲れるので、足の踏ん張りが効かなくなり(ここ大事です)、姿勢が保てなくなって、腰や背中、肩も首に疲労がたまる。そして、前傾姿勢になって、頭の重量約8kgが支えられなくなり、足の裏にさらに負担がかかるーーこの悪循環です。逆に言えば対策も簡単で、踏ん張りが効く靴やインソールを選ぶと、世界が一変します。
◆「止まる」ための靴選び――走るよりも、立つ人へ最適の2足
「スニーカーなら何を選んでも同じでしょ?」は、大いなる勘違いです。筆者は過去にスニーカーを履いた立ち仕事で足底筋膜炎を起こしました。踏ん張りが効かないと、足の裏はかえって疲れます。実体験ですが、以下の2足は靴単体でも足の裏へのダメージがかなり軽減されます。
ニューバランス「2002R」。1万9800円。写真は公式HPよりまずは、ニューバランス「2002R」(1万9800円)。このデザイン、ハイテクのようなクラシックのような不思議な外観ですが、ちょうどその中間です。最新のランニングシューズはもっと底が厚く、クッションが効くのですがその分足が沈み込みすぎて「立つ」=「止まる」といった動きには向いていません。このモデルはソールが15年前の仕様で、履いて立った第一印象は、ほどよく硬いです。歩いたり走ると衝撃吸収材が効くのですが、止まっていてもソールがうねうね動くことがなく、とにかくラク。ニューバランスの店員の足元を見ても、このモデルを履いている方が多いです。ニューバランスはそもそもインソールから始まった珍しいメーカーなので、基本設計が優秀です。2002Rは風や水を通さないゴアテックス版も出ているので、花屋などの外での立ち仕事が多い方にもおすすめです。
ワークマン「BMZアシトレウォーキング」。3900円。写真は公式HPより次にワークマン。先日、都内の私鉄の駅員が、ワークマン「BMZアシトレウォーキング」(3900円)を履いていているのを目撃しました。実に合理的な判断です。駅員は電車の運転だけではなく、線路に降りたり構内での事務作業であったり、ほぼ座ることがないと思います。このワークマンは、私もたまに履いているのですが、足の踏ん張りが結構効きます。「アシトレ」=「足のトレーニング」の名前のとおり、靴の設計自体がいわゆる「ベアフットシューズ」で、ほどほどの薄底で指先まで目いっぱい使える、ちょっと変わった構造をしています。
立ち仕事で足の裏が疲れるほとんどの場合が、スニーカーでも革靴でもヒールに少しだけ厚みがあり、無意識に重心が前に行ってしまうからです。この靴は完全にフラットなつくりなので、動にも静にも対応できて、ジムのウェイトトレーニングで愛用する方もいらっしゃるほど。インソールは謳い文句ほど効くわけではありませんが、設計そのものが秀逸なので立ち仕事には価格の割に効果的だと思います。はじめの数日間は体幹の筋肉痛があるかもしれませんが、それを乗り越えると「垂直に立つ」ということが体感できるでしょう。デザインにこだわらず、実用第一の方には最適な一足です。
◆靴を変えられないなら、“中敷き”を変えよう
職場のルールで制服の靴を変えられないことがあります。その場合は、中敷きを替えましょう。中敷きを抜いて機能性インソールに替えてしまいます。ポイントは、インソールにクッション性は求めず、足の裏のアーチを支えること。これ本当に大事です。立ち仕事なら自分の体重以上の負荷はほとんど掛からないので、下手にふかふかなクッション性は無用です。足を乗っけて「ちょっと硬いかも」と感じるくらいでちょうどいいです。
リゲッタ「ルーペインソール」。980円。写真はワークマン販売サイトよりリゲッタの「ルーペインソール」は、とにかく安くて筆者も使っていますが、足を支えるならまずこちらを試してみてください。通常店舗もしくは公式のオンラインで買うと1800円ちょっとですが、不思議なことにワークマンに行くと同じ製品が半額の980円で販売されています。このあたり事情はわからないのですが、物は同じなので近くにワークマンがある方ならそちらがベター。
このインソールはクッション性はゼロで厚みも非常に薄い。さらにカカトの骨がすっぽり穴に収まり、足~脚を倒れこませない仕様なので、見た目の派手さは一切ありませんがかなりラクになります。ただし低コストのため、表面がゴム丸出しでやや蒸れるのが唯一の弱点。靴の中敷きが外れるなら、もともとの中敷きの下にこれをサンドイッチしてもサイズ感はそれほど変わりません。
筆者私物こちらは筆者が葬式の時専用に履いているGUの革靴ですが、リゲッタをこんな感じでアレンジして使っています。もともとの中敷きを強引にはがし、リゲッタを内蔵するように使っているのですが、個人的にはサイズ感とかかとの浮き加減が気になったので、ハサミで前と後ろは適当に切り落とし、上に自作の革一枚の中敷きをつくってサンドイッチしています。このへんは個人の感覚でOKです。リゲッタは薄いので、ハサミで簡単に切り回せるのも良いところです。