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売上の4分の1を失う地獄の2年半を経たが…〈ミスド〉が「ドーナツ戦争」で大手コンビニ3社に勝利できた「逆転の戦略」

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顧客の一言から見つかった、自社製品に眠る「100倍の可能性」

その翌日。小杉は『影武者』のユーザーから届いた要望への対応で悩んでいた。

(これって、どうすればいいんだろう?)

届いたのは、こんな内容だった。

「『影武者』はクラウドを管理してますよね。だったら社員のスマホも管理できませんか? 最近、個⼈のスマホを社内のネットワークに繫げる社員が増えています。個⼈のスマホはセキュリティ対策が⽢いので、情報漏洩とか起こると困るんです」

『影武者』への機能追加はまず小杉が判断した上で、必要と判断したら反町が対応を検討することで反町と合意していた。しかし、技術的な知識がない小杉には、要望への対応が判断できなかった。

(困っているのはよくわかる。でもこの要望、そもそも『影武者』で対応できるの? 対応できたとして、そもそもウチでやるべきなのか?)

色々と悩んだ末に、まず反町に相談しようと考えた。

(反町さんは気難しいけど、他に相談する人もいないからなぁ)

勇気を出して、反町にメッセージを送った。

『反町さん、こんな要望が来ました。『影武者』で対応できますか?』

すぐに反町の返事が届いた。

『『影武者』のクラウドと社員を紐付ける仕組みを拡張して、個⼈スマホと社員を紐付けて管理する仕組みをつくれば、対応できますよ』

反町の返事を見て、小杉は再び考え込んだ。

(なるほど。『影武者』はクラウド以外に個人のスマホも管理できるのか。あれ? ってことは、情シス担当者が管理するパソコンとかサーバーとか、他のモノも管理できるってことか?)

しかし、いくら考えても自分ではわからない。小杉は反町に再び尋ねた。

『……では、この仕組みでパソコンやサーバーも管理できますか?』 『他にソフトウェアも含めて、情シスが管理するモノはすべて管理できますよ。ただし、開発の労⼒はそれなりにかかります』

すぐに返事が戻ってきたが、小杉はまだイメージが湧かない。また反町に質問した。

『たとえば社員のパソコンを『影武者』で管理できると、中⼩企業の情シス担当者にとって、何がいいんでしょうか?』

質問を送ってから(これって、お客さんの状況を把握しなきゃいけないボクが知ってるべきことで、開発をお願いする反町さんに聞く話じゃないかも……)と気が付いたが、反町は丁寧に返事をしてきた。

『情シス担当者が社員からパソコンの不具合の問合せを受ける時、これまでは電話でパソコンの設定を細かく聞く必要がありました。『影武者』で社員のパソコンの設定情報を⾒られれば、いちいち設定を聞かなくてもすぐに不具合の解決⽅法を教えられます。時間も⼿間も⼤きく減ります』

返事を見て、小杉はまた考えた。

(情シスが管理するすべてのモノを『影武者』で把握できれば、『ひとり情シス』の色々な仕事が効率化できそうだな。でも、お客さんの細かい要望をすべて聞いてその機能を全部開発する余力なんてウチにはないぞ。どうすればいいんだろう?)

小杉はまたもや考え込んでしまった。小杉は反町にメッセージを送った。

『ありがとうございます。この要望への対応をどうするか、少し考えさせて下さい』

小杉の返事を見て、自宅でリモートワークしていた反町はつぶやいた。

(小杉さんって、本当に真面目にお客さんへ対応してるなぁ。ウチの会社にもまだこんな人が残っていたんだな)

ライバルを“営業マン”に変える「API公開」という逆転の発想

「……ってことなんだけど、何かアイデアある?」

翌日、さっそく小杉が日吉チームの打合せで相談すると、日吉がうれしそうに言った。

「なんか小杉クン、反町さんといい感じでやってるみたいね!」

小杉は(そもそもそれって、日吉がボクに無茶振りしたからだろ)という言葉をかろうじて飲み込んで、話を続けた。

「解決できる仕組みがありそうな気がするんだけど、どうしても思いつかない……」

話を聞いて考えていたマルクスが「そう言えば……」と声をあげた。

「この前、確か『影武者』を『ヤマクラフォーキャスト』から使う仕組みをバリューマックスに提供する、って言っていましたネ?」

「タクシーアプリGOからグーグルマップの地図機能を使わせるのと同じ方法を『影武者』に組み込んで提供するって話だよね。APIっていう仕組みだよ」

「この仕組みは、今はバリューマックス1社限定で提供してマス。これを一般公開して、どのアプリからでも『影武者』を使えるようにしたら、どうデスカ?」

日吉は首を傾げて「それをやると、何がいいの?」と尋ねた。

「他社が自分たちのアプリで『影武者』を使って、代わりに売ってくれマス」

「なんかそれ、すごくムシのいい話じゃないの? 他社が『影武者』を使ってくれる理由なんて、あるのかしら?」

「たとえば、『パソコン不具合の問合せ』のアプリを提供している他社は、自社のアプリから『影武者』を呼び出すだけで、問い合わせてきた社員の詳細なパソコンの設定情報を、簡単に自社アプリの画面上に表示できマス。GOがグーグルマップを呼び出して、地図を表示するのと同じ方法デス」

小杉が「なるほど!」と声をあげた。

「そもそも情シスの仕事は、情シスが管理するすべてのモノを正常に動かし続けることだよね。『影武者』は、情シスが管理するすべてのモノの状態がすぐにわかる。つまり、他社が自分たちのアプリで『影武者』を使えば、『ひとり情シス』が抱える問題を今よりもずっと楽に解決できるってことか!」

「イエース。ただし、ボクたちがどこで稼ぐか考えておくことも大事デス。『影武者』を使った分のお金をどこからもらうかを、事前に考えておく必要がありマス。グーグルマップのやり方が参考になるはずデス」

小杉は「なるほど、グーグルマップね」と言ってネットを検索して、答えた。

「グーグルマップは、アプリを開発した会社から、グーグルマップを使った分だけの使用料金を取っている。つまり『従量制課金』だね」

「ワンダフル! ボクたちも、他社ITサービス企業が自分たちのアプリでどれだけ『影武者』を使ったかで、課金すればいいと思いマス」

「いいね! これまで他社ITサービス企業はライバルだったけど、これができれば彼らは『ひとり情シス』が抱える問題を一緒に解決するパートナーになる」

「そうデス。彼らと一緒に、巨人トライアンフの『鬼武者』を倒すんデス」

しかし、日吉はまだ納得せずに、首を傾げたままである。

「でも、他社のITサービス会社に『影武者』を売り込むのって、難しくない?」

『影武者』をどうやって使ってもらうか

突然スピーカーから、「はぁ〜」という深いため息が聞こえてきた。声の主は、オンライン会議に参加している反町だった。

「『売り込む』と考える時点で、まるで昭和の古い発想ですね」

日吉が「しょ、昭和って……」と言いかけると、スピーカーの反町が話を続けた。

「売り込むんじゃなくて、他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにすればいいんです……午後5時半になりましたので、退勤します」

反町はそう言うなり、オンライン会議から消えた。

残った日吉、マルクス、小杉三人ともがぼう然とした。しばらくして気を取り直した日吉が小杉に尋ねた。

「『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』ってどういう意味?」

「ボクに質問されても、わからないよ」

小杉は答えたが、ニコニコしながら自分を見る日吉の目に気が付いた。

「え? ボクが調べるの?」

日吉はウンウンとうなずいた。

「小杉クン、頼りにしているわ。反町さんとうまくやっているみたいだし」

それから数日間、小杉は自分で調べたり反町に尋ねたりして、反町が言う『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』という意味を何とか理解した。

(なるほど、そういうことか! この方法で『影武者』を売ればいいんだ)

「他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする」の意味

日吉チームの打合せで、小杉は調べた結果を話すことになった。

「まずおさらいだけど……。タクシーアプリのGOを開発するエンジニアは、自分では地図ソフトなんてつくらないよね。圧倒的に完成度が高いグーグルマップがすでにあるから、同じモノをつくるのはムダだ。だからアプリのエンジニアは、自分がつくるアプリからグーグルマップの機能を使うんだ。ここまでは、いいよね?」

日吉とマルクスがうなずくのを確認すると、小杉は話を続けた。

「実はこれは、グーグルマップが世の中に広がる仕組みでもある」

日吉が首を傾げて「なんでこれで広がるの?」と尋ねた。

「たとえば、ユーチューブで音楽を公開すると、たくさんの人がその曲を知るようになって、カラオケで歌ったりして、さらに曲が広まるよね」

「確かにそうね。私もよくユーチューブで曲を覚えて、親友とカラオケで歌うし」

「仕組みは同じだ。グーグルマップは、他社アプリからネット経由で使える仕組みを整えて、アプリから使う方法もネット上で公開している。エンジニアはその情報を検索して学んで、自分のアプリをつくる。こうして、ユーチューブで公開された曲が皆に歌われて広まるのと同じように、グーグルマップも多くのアプリで使われて、広まっていくんだ。ただしこれは、グーグルマップ自体が『自分のアプリに組み込みたい』と思わせるような優れものであることが大前提なんだ」

日吉は納得した。

「なるほどね。確かにいくら曲をユーチューブで公開しても、皆が『歌いたい』と思うようないい曲じゃないと広がらないわよね」

「その通り。さらにグーグルマップは、エンジニアがグーグルマップをもっと使うように情報発信したりしてガイドを充実させている」

「私たちも同じことをやるってこと?」

「そうなんだ。まずアプリとして『影武者』を魅力的な製品に仕上げて、多くの開発者に伝える。そして、アプリを開発するエンジニアが『影武者』を使いたくなるように、開発者向けの支援を充実する。これが反町さんが言っていた『他社のエンジニアが自分から使いたくなるようにする』という意味なんだ。そして、アプリを開発する会社から『影武者』を使った分を従量課金制で支払ってもらうんだ」

「なるほど。つまり他社エンジニアが『影武者』を自分のアプリに組み込んで、そのアプリをたくさんのお客さんが使えば使うほど、私たちにお金が入る仕組みなのね」

突然スピーカーから、「パチパチ」と拍手の音とともに反町の声が聞こえてきた。

「小杉さん、意外と説明が上手ですね」

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