「アトピー性皮膚炎(※)」は、かゆみを伴う湿疹が慢性的に続く病気で、睡眠不足やストレス、見た目への偏見、経済的負担など、生活の中でさまざまな困難に直面しています。成人患者にとっては仕事との両立が大きな課題であり、アトピー性皮膚炎のために仕事を辞めたり、仕事で通院が制限されて症状が悪化したりする人もいます。
- ※ 「アトピー性皮膚炎」とは、強いかゆみのある湿疹ができ、症状が悪くなったり良くなったりを繰り返す病気
こうしたアトピー患者の困難に寄り添い、支援活動を行っているのが特定非営利活動法人日本アトピー協会(外部リンク)です。電話やメールでの相談に応じるほか、災害支援として肌にやさしい日用品を詰め合わせた「レスキューパック」を被災地に届ける活動にも取り組んでいます。
本記事では同協会の代表理事を務める倉谷康孝(くらたに・やすたか)さんに、アトピー患者の実態や日常で抱える困難について伺いました。

24時間365日、体の内側がかゆいという感覚
――アトピー性皮膚炎とはどのような疾患でしょうか。
倉谷さん(以下、敬称略):アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインには「増悪と軽快をくり返す瘙痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患」とあります。
これを、簡単に言うと「24時間365日、かゆみに悩まされ、症状が良くなったり悪くなったりする疾患」です。かき傷からは「浸出液(※)」という液体や血が出て、痛みを伴います。
幼い頃に発症し、成長とともに治ることもありますが、大人になっても症状が持続する人や、大人になってから発症、再発する人もいます。
- ※ 「浸出液」とは、炎症時に出る分泌液で、皮膚の再生を促す物質が含まれる
――アトピー患者の方が感じている「かゆみ」はどういうものなのでしょうか。
倉谷:アトピーのかゆさは皮膚表面ではなく、内側で起こります。よくいわれるのが、「体の表面ではなく、体の中がかゆい」という感覚です。皮膚の上から、内側のかゆいところに向かってかくので「かいても、かいても届かない」。だから、血が出るまで、痛くなるまで、かいてしまうんです。

日常生活での制限や時間的負担も大きい
――2020年の厚生労働省の調査(※1)によると、アトピー性皮膚炎の患者数は125万人を超えるとされています。アトピー患者の方は日常的にどんなケアをされているのでしょうか。
倉谷:アトピーの症状は、皮膚が乾燥しやすいことで、外部の刺激物やアレルゲン(※2)に敏感になって炎症が引き起こされます。そのため、常に肌の清潔を保つ必要があります。例えば、汗をかいたときはこまめに拭いたり、お風呂に入って流したり、バスタオルは1回使ったら交換したりするといった工夫をされている方もいます。
肌着は綿100パーセントが推奨されていますね。「デザインを重視したいが、素材や着心地で着るものを選んでいる」という方もいますし、塗り薬は衣服につくとなかなか落ちないため「すぐに汚れてしまうから高価な肌着は購入しづらい」という声も聞きます。
日常的なケアとしては、主に朝とお風呂上がりに保湿剤とステロイド(※3)の塗り薬を塗ります。保湿剤は全身に、塗り薬はかゆみがある部位にそれぞれ使うのが一般的です。
- ※ 1.出典:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」
- ※ 2.「アレルゲン」とは、アレルギーの原因となる抗原(原因物質)のこと
- ※ 3.「ステロイド」とは、体内の副腎という臓器でつくられているホルモンで、このホルモンがもつ作用を薬として応用したものがステロイド薬
――日常生活の中で、薬を塗り続けなければならないのは大変ですよね。
倉谷:患者さんの中には、数種類の塗り薬を部位ごとに使い分けなければならない人もいて、多くの時間と手間がかかります。たとえ疲れていても、どんなに眠くても、お風呂に入って薬を塗らなければならない。薬を処方している皮膚科の先生自身も、「これを毎日続けるのは本当に大変だと思う」というくらい日々のケアによる負担が大きいのです。
面倒だからといって薬を塗るのをやめてしまうと、たった数日だとしても、確実に症状は悪化してしまいます。

