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止まらぬかゆみ、見た目への偏見で暮らしに影響を及ぼす「アトピー性皮膚炎」

慢性的な睡眠不足から精神疾患になる人や仕事との両立に悩む人もいる

――かゆみの症状で眠れなくなる人もいるそうですね。

倉谷:アトピーのかゆさで眠れない、寝ながらかきむしってしまい朝起きるとシーツが血だらけになっている、というのは多くの患者さんから伺います。

睡眠専門外来で不眠症(※)患者を診療してきたスリープクリニックの遠藤拓郎先生は、「アトピー性皮膚炎の不眠が全ての不眠症疾患の中で最も重症である」という論文を発表しています。

アトピー患者さんはかゆさで入眠が難しく、1時間ごとに目が覚めてしまう方もいるので、長く安定した睡眠が取れません。

そうした慢性的な不眠が続くことで、精神的にも追い詰められ、重い精神疾患を抱えてしまう方や、「死ぬまで、この痛くてかゆいままなのだろうか」とネガティブな考えから抜け出せない方もいます。

アトピーは「かゆいだけの疾患」と思うかもしれませんが、それが何年、何十年と続くのですから、時として命にも関わるということを知ってほしいと思います。

  • 「不眠症」とは、眠りに関する問題があり、日中に倦怠感、意欲低下などの不調が出る病気

――眠れないことで、仕事や生活にも影響があるのではないでしょうか。

倉谷:厚労省がアトピー患者に対して行った調査(※)では、「アトピー性皮膚炎のために仕事量や内容が制限されることが時々以上ある」と答えた割合が 34.8パーセント、「アトピー性皮膚炎のために仕事を辞めたことがある」と答えた割合が13.7パーセントもいることが分かりました。

症状にもよりますが、かゆみで勉強や仕事に集中できなかったり、満員電車での通勤がストレスになって症状が悪化してしまったりと、仕事との両立に難しさを感じる患者さんは一定数います。

通院のために仕事を休みたくても、職場での理解がなければ、なかなか言い出せないこともあるようです。我慢しているうちに症状が悪化し、寝不足になり……、と悪循環に陥ることもあります。

  • 参考:厚生労働科学研究費補助金「令和2年度アレルギー疾患の患者および養育者の就労・就学支援を推進するための研究」
アトピー性皮膚炎によるかゆみで、睡眠が妨げられる日数(1週間あたり)を示す棒グラフ。患者(n=436)全体で、平均1.4日/週睡眠が妨げられています。

内訳は以下の通り。

0日/週(睡眠が妨げられない):45.4%

1日/週:19.7%

2日/週:13.8%

3日/週:8.9%

4日/週:3.0%

5日以上/週:9.2%

グラフの下には、「週に1日以上:55%」と記載。
55パーセントの患者が睡眠に影響があると回答、9.2パーセントは週5日以上睡眠を妨げられている。データ出典:日本イーライリリー株式会社「2024年アトピー性皮膚炎患者さんと一般生活者への実態調査結果」

かさむ経済的負担と、間違った認識による偏見の目

――他にはどんなことに困っているのでしょうか。

倉谷:通院や日常的なケアの時間的負担に加えて、経済的な負担も大きいです。薬代だけでも月に数万円かかる方もいますし、衣服や化粧品といった直接肌に触れるものには安価なものが使えないため、費用がかさみます。

また、他者の視線で嫌な思いをされる方や、好きな服装を諦める方も多くいて、「薄着に抵抗があり、夏は特に人の目が気になる」「顔に症状が出ると目立つので、周りから嫌なことを言われたことがある」という声を聞きます。

――身体的だけでなく、精神的にも負担がかかっているのですね。

倉谷:いまだにアトピーを「うつる病気」だと誤解している人もいて、間違った認識によって偏見の目にさらされてしまうこともある。職場で受付業務を外されたり、飲食店で働くことを拒否されたり、見た目による差別を受けたことがある人もいます。そうした周囲の人たちの認識を変えていくことも必要です。

青い背景の中央に、困った表情で立ち尽くす女性のイラスト。周囲の四方から、4本の手が女性を指差しており、背景には「HA-HA-HA-HA」という嘲笑のような文字が薄く描かれている。
周囲の視線がストレスとなり引きこもってしまう人もいる

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