◆「一人で行ってはいけない」地区にそびえる高層ビル
その名はポンテ・シティ・アパートメント、通称「ポンテタワー」だ。ヨハネスブルク市内でも「一人で行ってはいけない」とされる地区に隣接する。インターネットでこのビルを検索すると、誰が言い出したのか「凶悪ビル」「世界一高いスラム」「入ったら15秒で死ぬ」など、穏やかではない単語がずらりと並ぶ。1975年に建てられた地上54階建て・高さ173メートル、円筒の中心が空洞になったドーナツ型の高層ビル。この日は天気がイマイチだったこともあり、くすんだ灰色の空にそびえる古い建物の姿にはなんとも言えない迫力があった。

私自身は、2023年に南アに引っ越してから2年あまり怖い目に遭ったことは一度もない。ここは風光明媚で食事も美味しく、人も温かい国で、ビザが許す限りなるべく長く滞在したいほどだ。ただし、「常に車で移動する」「夜間は外出しない」など、毎日それなりに気をつけて生活している。なにより、このビル周辺はトリッキーな場所だ。日本の外務省は、隣接するヒルブロウ地区を「犯罪が昼夜を問わず発生する」エリアとして注意を呼びかけている。旅行者が目的もなくこの地区を訪れると聞いたとすれば、全力で止める。生半可な気持ちで一人で訪れては絶対にダメだ。

◆中は「バイオハザード」の世界!? 時代に翻弄されたビルの過去

立体駐車場を抜けてビルに入ると、空洞になった中心部に向かってヒヤッと風が抜け、鉄網に張り付いたクモの巣がなびいた。
階段を降りる足音がタン、タン、と暗いビルに響く。ホラー映画も顔負けの雰囲気なのでは……!?と思っていたところ、ガイドのラビレさんがこの場所が実際に映画『バイオハザード: ザ・ファイナル』のロケ地として使われたと説明してくれた。ここは、ホンモノのホラー映画の世界だったのだ。


1980年代になると白人と有色人種の交流が始まり、混血の子どもがじわりと増えた。ところが、これを当時の白人政権が問題視。1985年にこの地域を「人種が交わる望ましくないエリア」に指定し、水道・電気などインフラ整備を打ち切ってしまったそうだ。この結果、白人は周辺に移住。残された建物は空き家化し、国内外の犯罪者らによる不法占拠(南アではこれを「建物のハイジャック」という)にさらされた。

電気が止まってエレベーターが使えなくなった住民らは、地上までごみを運ぶのが大変だからと中央の吹き抜け部分に投げ捨てるようになった。生ごみ、粗大ごみに、ギャングに殺された者や自殺者の遺体まで……。ごみは、14階部分まで積み上がったという。


