◆リノベで刷新、子どもたちのはしゃぐ声!
そんな「高層スラム」の歴史を脳内で反芻しながら、ラビレさんに連れられて建物の51階へ向かう。軋む鉄柵の扉を開けると、その先にもう一枚、扉があった。まさかの、防犯用二重扉だ。さすがにギャングはもういないだろうと思いつつ、少し身を固くして中に入ると……。そこは、綺麗に片付いたパーティールームだった。酒が並ぶバーカウンターもある。「犯罪者の巣窟」のイメージとはほど遠い、現代的でスタイリッシュな空間だ。

建物の中は阿鼻叫喚かと恐れ慄いていたので、若干拍子抜けするとともに安堵感が広がる。そして見てほしい、この眺望を!


◆「ここに人々の暮らしがある」地元出身ガイドの思い
案内してくれたガイドのラビレさんはこの建物から5分のところに住む地元っ子だ。もともと観光に興味があり、高校卒業後「地元出身だから伝えられることがあるはず」と近所のポンテタワーでガイドを始めた。地元出身のラビレさんにこんな質問をぶつけるのも不躾かと思いつつ、これを聞かずに帰るわけにはいかない。意を決して投げかける。「日本ではここは『入ったら15秒で死ぬ』と言われる場所なんですが、これについてどう思いますか?」
ラビレさんは聞かれ慣れているのか驚く様子もなく、ちょっと笑いながらこう答えた。「日本の皆さんに伝えたいのは、『15秒で死ぬ』なんてことはないんだよということです。ここにはちゃんと暮らしがあって、人々がいて、子どもたちもいて、みんな幸せに過ごしている。ぜひ自分の目で見にきてもらいたいです」


【神谷美紀】
南アフリカ・ヨハネスブルク在住。元テレビ局報道記者。専門は政治・経済・ジェンダー。食、映画、アートにも関心がある。コーヒーをこよなく愛し、執筆文字数とコーヒーの消費量は常に比例する。最近のマイブームはテレビゲーム『塊魂』。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

