◆今回の件は真面目さと誠実さが生んだ悲劇?
しかし、そのように謙虚なだけではなく野心家の一面もある。ダンスも歌も未経験だったド素人を、あえてグループに迎え入れる決断をした周囲に対して、高らかに宣言しています。
<僕に実力以上の何かを感じて、何か大きな変化を起こそうとしてる。だからこそ、自惚れとかじゃなくて、自分がこのグループを今以上のステージに持っていく起爆剤になろうと思います。なので、少しも悩んでる暇はない。焦りはありますけど、プラスの焦りです。>(『an・an web』 2025年3月24日配信)
歌やダンスで主力にはなれない。しかし、だからこそその代わりに、従来のアイドルグループにはない付加価値を与えることができる。timeleszでの篠塚大輝のアイデンティティは、そのように確立されたであろうことがわかるのではないでしょうか。
だから、<いまは もう うごかない おじいさんに トドメ~>は、真面目さと誠実さが生んだ悲劇だと言えるのです。番組に貢献したい、グループの名前を売りたい。そうした真っ当な積極性から、最悪の解答を導いてしまったことに切なさを覚えこそすれ、必要以上に袋叩きにするのは行き過ぎというもの。
篠塚が年齢を重ね、肩の力が抜けたとき、きっと笑いの最適解が見つかるはず。温かい目で見守る視聴者がいてもいいのではないでしょうか。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

