◆高齢者世代が“スマホ依存”に陥るリスクは低い
ーーそこで「スマホを認知症予防につなげる」という冒頭の話につながっていくわけですね。先生のクリニックでは2025年6月にはスマホを長時間使いすぎることで記憶力が低下し、認知症のような症状が現れる「スマホ認知症外来」を全国で初めて開設されていますが、スマホには依存や情報の偏りといったリスクも指摘されています。内野:もちろん、スマホにはリスクもあります。自分の好みの情報ばかりが届き、他の意見が見えなくなる「フィルターバブル」という現象です。たしかに若い世代では、好みの情報が次々と流れてくることでドーパミンが過剰に刺激され、スマホ依存に陥る危険性があります。しかし、高齢者の場合は事情が異なります。ドーパミンの分泌量がもともと少なく、集中が長く続かないため、依存に陥るリスクは相対的に低いのです。むしろ、ドーパミンが不足しがちな高齢者にとって、スマホは意欲を引き出す有効な刺激になります。いわば、高齢者の弱みが、むしろ強みとして働くのです。
ーースマホがシニア世代の“脳のリハビリ”になるということですか。
内野:スマホの利点は、検索にとどまりません。オンライン講座の受講や趣味の共有、家族や友人とのつながりなど、社会的交流を活発にする力があります。こうした社会的な刺激は、孤立や抑うつを防ぎ、認知症予防の効果をさらに高めます。
家族以外の他人と会話をすることは、共通の前提が少ないぶん認知負荷が高く、脳にとって良い刺激になります。SNSでの言葉のやり取りは社交性の維持に役立ち、「言葉のフレイル(言葉の衰え)」を防ぐ効果もあります。また、退職後に承認の機会が減った高齢者にとって、ネット上での交流や知識の共有は、承認欲求を満たす場にもなります。
ーー社会との関わりを持つこと自体が、脳の健康に影響するわけですね。
内野:その通り。認知症予防には「きょういく(今日行く)」「きょうよう(今日用)」が必要だといわれます。これは、“今日行く場所”や“今日やる用事”を持つことで、自分が社会とつながっている感覚を保つという考え方です。私はそこに、さらに「教育」「教養」といった学びの意味も重ねています。SNSや趣味のコミュニティは、まさにその「きょういく」「きょうよう」をデジタル上で実現できる場といえるでしょう。
さらに、VRやYouTubeで旅行や美術館、映画などを体験することも効果的です。懐かしい場所や音楽に触れることで、かつての思い出がよみがえり、気持ちが穏やかになることがあります。こうした「昔を思い出す」働きを活かした心理的アプローチを「回想法」といい、たとえばGoogleマップのストリートビューで昔住んでいた町を眺めるだけでも、記憶が呼び覚まされ、脳の活性化につながります。
事実、デジタルデバイスを日常的に使用している高齢者は、そうでない人に比べて認知症の発症率が3割以上低いという報告もあるほどです。
ーースマホを使い慣れない高齢者に向けて、アドバイスがあればお願いします。
内野:テクノロジーの恩恵をもっとも大きく受けられるのは、若者でもミドル世代でもなく、実はシニア世代なのかもしれません。年齢に関係なく、学び、挑戦し続けることこそが脳のトレーニングであり、できなかったことができるようになるたびに脳が若返ります。難しく考える必要はありません。まずは「写真を撮る」「家族にLINEを送る」といった、身近なことから始めてみてください。
<取材・文/櫻井カズキ>

