◆初心者マークを狙ったあおり運転

「社会人になって車通勤を始めたばかりでした。帰りにスーパーに寄ろうと思って、普段は通らない四車線の大通りを走っていたんです」
まだ運転に慣れていなかった田村さんは、できるだけ周囲の邪魔にならないようにと、真ん中の車線を走っていたという。
「そしたら突然、後ろの車がパッシングしてきて、最初は救急車が来たのかと思いました。でも、バックミラーをみてもそんな気配はなくて、ただひたすら圧をかけてくるような感じでしたね」
そのまま走り続け、赤信号で停止。相手の車は、ピタリと後ろに張りついてきたそうだ。
「心臓がバクバクしていました。『危ない、ぶつかる!』って思うくらい、ギリギリまで詰めてきたんです」
信号が青に変わっても、相手は車間を詰め再びパッシングをはじめた。
「そのとき、『これって、もしかしてあおり運転?』って気づきました」
◆睨み返して退けた相手
恐怖に耐えきれなくなった田村さんは、右折レーンに進んだ。
「右折して逃げようと思ったんです。でも、相手も当然のように隣の右折レーンに入ってきました」
そして、田村さんをじっと睨んできたという。
「不安もありましたけど、同時に怒りも込み上げてきて……。思わず『ふざけんな!』という気持ちで、本気で睨み返しました」
赤信号の間、視線を逸らさない状態が続いた。田村さんは、「絶対に負けない。視線は外さない」と心のなかで言い聞かせながら、ずっと睨み続けたそうだ。
やがて青信号に変わると相手はハンドルを切り、いきなり直進レーンに割り込んだ。
「右折レーンにいたのに、急に直進してそのまま走り去ったんです。周りの車からはクラクションが鳴り響いて、危うく事故になりかけていました」
恐怖と同時に、妙な達成感も残っていた田村さん。
「睨みつぶしたってやつかなと思いました。自分にそんな一面があるって気づいて、ちょっと怖くなりました」
危険な体験ではあったが、田村さんにとって忘れられない出来事となった。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

