◆「緊張がほどける瞬間は、いつも1曲目の始まり」
そして、迎えた雲組単独公演#22。円陣では、伊藤ゆずがメンバーに向けて「まずはみんな、ここまで頑張ったよね 」「2人(安納と持永真奈)が雲組に来て初めての公演だから、ファンの皆さんの期待を超えられるようなパフォーマンスをしましょう!」と声を掛けた。安納がこの日に掲げた目標は、「誰よりも楽しむこと」。暗転のなかで、緊張で震える手足にグッと力を入れてステージを踏んだ。

「オリジナルメンバーとは違った角度で、新しい世界を作れるのが雲組公演の醍醐味だと思っていたので、『視線のラブレター』でも(杉浦)英恋とは違う主人公を目指しました。体の動きも違うんですけど、オリジナルの世界感よりも少し明るめというか、ファンタジーに近い気持ちで演じました。
英恋が小説なら、私は絵本かなって思います。客席との距離が近いので僕青の公演とは違った迫力がありましたし、ライブ後に声と笑顔を褒めていただけることが多くて。もともと自分の声が好きではなかったから、『私の声を好きでいてくれる人がいる』と安心できて嬉しかったです」
◆出口のない不安を照らしたアイドルという存在
アイドルに執着があったわけじゃない。僕青に加入する前の彼女は、学校の授業に出て部活動が終わったら、親友と帰り道にたわいもない話で盛り上がる。そんな普通の学生生活が奪われたのは、新型コロナ感染拡大による全国一斉休校だ。
そんな彼女に寄り添ってくれたのが、アイドルだった。とくに元櫻坂46の菅井友香のような雰囲気や人間性に心が惹かれた。目を輝かせる娘を見ていた母から、「気分転換に挑戦してみたら?」と僕青のオーディション要項を差し出した。
「今思えば、人生の別ルートが欲しかったんだと思います。抱えている生きづらさを解消できるものがあるなら挑戦してみたいって」

