DeNAはこのとき、「藤波の再生には自信がある」と言い切っていた。「投球フォームのメカニズムを修正できるから」というのが、その理由だった。しかし、現実はそんなに甘いものではなかった。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

◆ズラリと左打者を並べた中日の奇策
藤浪は、捕手が右打者の内角に構えると、途端にコントロールを乱す悪癖を持つ。ときには頭部付近にボールが行ってしまうこともある。8月17日の復帰後の一軍初先発登板時には、印象的な出来事が起こった。対戦相手である中日が頭部死球を恐れ、1番から9番までズラリと左打者を並べたのだ。だが、「いつものメンバーで戦えばいいのに」と思っていた。なぜなら、当ててしまうことを恐れるがあまり、右打者の内角には投げられなくなっており、それが藤浪の投球を乱していると考えていたからだ。
結果的に中日は白星を献上してしまったのだが、藤浪が改善されているとはまったく思えなかった。その予感は的中し、9月14日の巨人戦では、4番・岡本、5番・岸田、7番・リチャードと右打者を並べるスタメンで藤浪との戦いに挑んだ。
立ち上がりの1回こそ3人で抑えたものの、右打者の内角を攻められないと踏んだ巨人ベンチの思惑どおりに試合は進む。藤浪は2回に打者7人で一挙に4点を奪われ、このイニング限りで降板。さらにその翌日には、一軍登録を抹消されることになった。
◆江本氏が考える「藤浪再生法」とは
もし私が投手コーチならば、データの分析や解析などは用いたりせず、「打撃投手を務めなさい」とだけ言う。少なくとも半年間は、連日何百球と投げさせるだろう。打撃投手というのは、内外角、高低と投げ分け、「打者に気分よく打ってもらう」ことが仕事だ。現役の投手にしてみれば決して気持ちのいい仕事ではないだろうが、あることが発見できる。「打者のウィークポイント」である。
たとえば外角高めに打ちごろのボールを投げたとする。打者が「カーン」と打球を飛ばしたところへ、次は外角高めからやや低めにボールを投げる。すると、今度は一転して内野ゴロに……。
こうして1球、また1球と、ボールを四隅に投げ続けていく。その結果、どこが安全で、どこが危険なのかが、徐々にわかってくる。打撃投手を通じて、打者の特性をつかんできたところで、はじめてブルペンに入る。そこで力の入れ具合を確認しながら投げ込んでいき、コントロールのコツをつかんでから、実戦に戻っていく……というわけだ。

