男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。
出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。
—あの時、彼(彼女)は何を思っていたの…?
誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。
さて、今週の質問【Q】は?
▶前回:「付き合うまでは、よかったけど…」初デートで交際することになったものの、3ヶ月で破局したワケ
「私、妻を辞めます」
ある日突然、“妻が妻でいること”を辞めた。
それはあまりにも唐突で、最初は何を言っているのかわからず、自分でもだいぶ間抜けな声が出てしまった。
「へ?ごめん、何を言ってるの?」
「私、本気だから」
そう言ってダイニングテーブルの上に突きつけられたのは、離婚届だった。しかもちゃんと、彼女側の署名欄や住所欄は綺麗に埋まっている。
「いや、夏希。ちょっと待って。冷静になって」
「私はいつも冷静だよ。結婚して12年、もうウンザリなの」
「華恋はどうすんだよ?」
「それは変わらず、一緒に育てます。ただ、あなたの妻を辞めます」
今年で12歳になる華恋は一緒に育てるけれど、僕との結婚は辞めたい…そんな妻の意味不明なワガママを、受け入れられるはずがない。
しかし妻はかなり本気で、一歩も譲らなかった。
Q1:妻が日々夫に思っていたことは?
夏希と出会ったのは、知人の紹介だった。初めて会った時、僕のものすごくタイプで「どうしても彼女と付き合いたい」と思ったのを覚えている。
僕が猛アプローチをして、めでたく付き合うことになった。
当時29歳だった僕はまだ日系の証券会社勤めで、一般のサラリーマンよりは高給取りだったかもしれないけれど、外資系などに比べたらまだ全然少ない給料だった。
同い年の夏希が僕を受け入れてくれたのは、彼女も日系コンサル会社に勤めており、経済的に自立していたからかもしれない。
そして交際して2年後の秋、ハワイでプロポーズをし僕たちは晴れて夫婦となった。
そしてその1年後に華恋が誕生…と、まさに順風満帆だったと思う。夫婦なので、ケンカをしたことはあるけれども、離婚危機に陥ったことなんて、数回程度だ。
でももちろん、子育ての方針でぶつかることはあった。
一番大きかったのは、華恋の小学校受験だったかもしれない。
僕自身、公立出身だったので、中学くらいまでは公立で良いと思っていた。しかし夏希は華恋を、どうしても小学校から私立へ入れたいらしい。
「華恋は女の子だし、早めに受験させて、エスカレーター式で上まで行かせた方が絶対にいいと思うの」
「別に公立で良くないか?」
「公立と私立だと全然違う。絶対に、私立へ行かせたいの」
「そんなに言うなら、夏希が受験すれば?僕は、金は出すけど」
「何その言い草。あなたの子どもでもあるんだから!」
実は結婚してから、外資系のコンサル会社へ転職した僕。もちろん給料もあがり、塾代や受験代、そして小学校から私学へ行かせられるほどの経済力は持ち合わせていた。だからお金の負担はいくらでもできる。
でも塾の送り迎えなどは、仕事があるしできるはずがない。
「もちろん僕の子で華恋の幸せを誰よりも願っているけど…。日中は、現実的に僕は見れないし。それは夏希の役割でしょ?」
華恋が生まれてから、仕事を辞めた夏希。僕からすると暇そうに見えるし、基本的に子育てに関しては夏希に任せていた。
「なんでそんな言い方しかできないの?好きで仕事を辞めたわけじゃないのに」
「そうかもしれないけれど、実際に稼いでいるのは僕だし、僕の方は、仕事は辞められないよ」
「仕事辞めて、なんて一言も言ってないでしょ…」
ここからさらにケンカはヒートアップし、結局僕が折れ、華恋は小学校受験をすることになった。
そこからだいぶ大変そうだったけれど、華恋の頑張りもあり、第一志望の女子校に合格できた。
「華恋、よく頑張ったな〜」
合格の知らせを聞いた日、僕は思いっきり華恋を抱きしめた。
「うん、頑張った。パパ、ありがとう」
華恋の嬉しそうな顔と、夏希の安堵の表情を見て、受験が無事に終わったことを心底喜んだのは言うまでもない。
そして華恋は無事に小学校へ入学し、僕たち夫婦も特に問題なく平和に過ごしていた。
Q2:妻が、妻を辞めた理由は?
華恋が小学校に上がり、夏希もだいぶ自由な時間が増えたようで、僕から見ると毎日楽しそうにしていた。
同時に、僕の仕事も結構忙しくなり、朝も早いし出張も増えていく。
「明日の出張の用意、お願いしていい?」
「わかった」
出張前になると夏希はさっと準備してくれる。出張から帰ると、荷物のアンパッキングもしてくれるし、かなりできた妻だと思う。
食事の準備も手を抜かないし、華恋の習い事の送り迎えもしてくれている。
そんな夏希に対し、感謝の気持ちを忘れているわけではなかった。
「本当に助かる、ありがとう。夏希はいい妻だな」
「良かった」
「そういえば、冷蔵庫のビール切れてるかも」
「そうなの?補充しとかないとだね」
「うん、頼んだ」
僕は家で晩酌するのが好きで、夏希が作ってくれる晩酌セットをつまみながら飲むのが至福の時間でもあった。
そんな大切な時間に、夏希は急に大事な話をし始めた。
「夏希は?飲まないの?」
「じゃあ一杯だけ。そういえば、そろそろ仕事復帰しようかなと思って」
「そうなの?なんで?」
華恋はまだ小学生だ。
「華恋だってまだ小さいんだし、母親が側にいてくれた方がいいんじゃないの?お金は僕がなんとかするし」
「うん、それは感謝してる。でも金銭面のことじゃなくて、私もそろそろ復帰したいなと思って」
「そうなんだ…」
別に仕事復帰するのは構わないけれど、家のことや華恋のことが心配ではないと言ったら嘘になる。
「大丈夫。華恋の送り迎えとかには支障がないようにするし、今までのように家のことはするから」
「それだったらいいんじゃない?」
こうして、僕は快く妻の仕事復帰を承諾した。
しかし、これがダメだったのだろうか。仕事を始めた途端に、忙しくなった夏希。夕飯も作り置きが増えたし、家事もアウトソーシングすると言い始めた。
「それだと本末転倒じゃない?稼いだお金で家事をアウトソーシングって…もったいなくない?」
「私のお金なんだから、どう使おうと勝手でしょ?あなたのお金からは出してないんだから」
「そうだけど…」
たしかにそう言われると、何も言えない。
結局妻はアウトソーシングをうまく活用しながら、仕事と家庭の両立を頑張っていた。
しかし華恋が中学生になるタイミングで、突然妻を辞める宣言をした夏希。
うまくいっていたし、家庭は幸せだったはず。お金にも困ってなかったし、生活費も結構しっかり渡していた。華恋の子育てに関しても、うるさく言わないようにしていた。
― 何が不満なんだよ…。
そう思いながら、僕は悶々とした気持ちを抱え続けている。
▶前回:「付き合うまでは、よかったけど…」初デートで交際することになったものの、3ヶ月で破局したワケ
▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由
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女が急に妻辞めます宣言した理由は?

