いつまでも輝く女性に ranune
たった一度の“過ち”がすべてを奪った…50代で年収1,500万円だったエリートが〈年金15万円・貯金0円〉、むごい老後を送るワケ。「メガバンカーとしての自分が死んだ日」【FPが解説】

たった一度の“過ち”がすべてを奪った…50代で年収1,500万円だったエリートが〈年金15万円・貯金0円〉、むごい老後を送るワケ。「メガバンカーとしての自分が死んだ日」【FPが解説】

下された「行政処分」と「懲戒解雇」

佐伯さんのケースは、組織的な犯罪ではなく単独犯であったこと、利益額が巨額とまでは言えないことから、警察による逮捕(刑事告発)は見送られました。その代わり、金融庁からの「課徴金納付命令」という行政処分が下されました。

しかし、行政処分が下ったという事実は、銀行側に通知されます。銀行の処分は、冷徹かつ迅速でした。就業規則に基づき、最も重い「懲戒解雇」が言い渡されたのです。

「当行の信用を著しく傷つけた。退職金は全額不支給とする」

長年積み上げてきたキャリアと、数千万円の退職金が、その一言で消滅しました。さらに、不正に得た利益は課徴金として没収され、手元の貯蓄も大きく目減りしました。

「懲戒解雇」の事実は経歴に残ります。銀行を追われた佐伯さんは再就職活動を始めましたが、金融機関やコンサルティング会社は、前職の退職理由が「懲戒解雇」である人間を絶対に雇いません。

また、金融業界は狭いものです。「あの佐伯がインサイダーで飛ばされたらしい」という噂は、水面下で瞬く間に広がっていました。

社会的信用を失った佐伯さんは、妻とも離婚。財産分与と生活費で家も失いました。生活のため、佐伯さんは身元調査が厳しくないアルバイトを掛け持ちし、食いつなぐしかありませんでした。

そして65歳になったいま、受け取れる年金は月15万円程度です。現役時代は高収入でしたが、離婚時の年金分割に加え、定年を待たずしての解雇で厚生年金の加入期間が短くなったことが響いています。

かつては年収1,500万円を誇ったエリートが、現在は単発のアルバイトと少ない年金で、貯金ゼロのまま暮らしています。「メガバンカーとしての自分」は、あの日、静かに社会から抹殺されてしまったのです。

インサイダーのリスクを抱える職場

銀行・証券に勤める人は、企業の経営戦略・M&A情報など、未公表の“極秘情報”に日常的に触れる機会が多く、金融業界では取引制限が非常に厳しくなっています。また、一般の上場企業に勤務する人も、日ごろから社外秘の未公開情報に触れることもあります。

本人はもちろん、その情報をもとに家族や友人が株を買った場合でも、インサイダーとなる可能性があります。たとえば、居酒屋で隣の席で漏れ聞いた未公開情報をもとに第三者が取引した場合でも、インサイダー取引が成立することがあるほど、その認定は厳格です。

2000年代には、堀江貴文氏(ライブドア)や村上ファンドの村上世彰氏の事件で、インサイダー取引が世間の注目を集めました。堀江氏と村上氏のやりとりがインサイダーにあたるかどうかについては、いまもなお、疑問視されていますが、インサイダー取引には厳しい罰則があります。

佐伯さんのように、慢心や一瞬の気の緩みから、想像以上に大きなものを失うことがあるのです。

証券取引等監視委員会が公表する、令和5(2023)年度におけるインサイダー取引に関する「課徴金納付命令勧告件数」は 13件(7事案)。発覚している件数は少ないものの毎年発生しており、金融機関の社員が関係している事件もあります。逮捕に至らない行政処分のケースであっても、社会的制裁は甚大です。

ほんの一瞬、「魔が差した」だけで、エリートの地位も、お金も、家族も失ってしまうことも。そして、その代償は一生続きます。どれほど優秀であっても、自分のなかにある“欲”や“油断”を律し続ける必要がありますね。
 

小川 洋平

FP相談ねっと

ファイナンシャルプランナー

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