恵美さんが目にした〈信じがたい光景〉
母の後ろには、何段にも積まれた段ボール箱が、玄関からリビングまでの通路をふさいでおり、まるで倉庫のようになっていたのです。
「ちょっと待って、どうしたのそれ。後ろの箱!」
青ざめながら箱の中身を確認すると、健康器具や調理器具など、通販番組でよく見る商品の数々でした。さらに、リビングには未開封の高級化粧品やサプリメントが、足の踏み場もないほど無造作に置かれています。
「なんかおかしいと思ったら……こんなに買い込んでどうするつもり!?」
「安いと思ってつい……。気づいたらこんな量になってて」
思わず強い口調で問い詰める恵美さんに対し、初枝さんは目を泳がせ、オドオドと答えるばかりです。嫌な予感がした恵美さんは、今度は2階がどうなっているのか不安に駆られ、階段を駆け上がりました。
まるで時間が止まったような空間…娘が悟った母の「本音」
部屋に入り、恵美さんは息を呑みました。そこはもともと父が使っていた部屋でしたが、まるでいまも父が生きているかのように、レイアウトはそのまま。さらに、棚の上には父の写真や父が愛用していた眼鏡、万年筆など思い出の品々が丁寧に並べられ、まるで時間が止まったかのようです。
(電話のときは気丈に振る舞っていたけど、ずっと寂しかったんだな……)
恵美さんは瞬時に悟りました。
「お母さん、気づいてあげられなくてごめん」
買い物で気を紛らわそうとしていた母の心境を思うと胸が締めつけられ、恵美さんは思わず涙をこぼしました。
