◆なぜ熟女アイドルとしてデビューしたのか

「私もダンスをやりたいと思っていて、同じステージで悪女時代の一期生とご一緒したことが縁で、総取締役とも顔見知りになって。テストを受けて加入させてもらいました」
厳格な家庭で育ち、ポップスやアイドルに馴染んだ期間は人並み以下のフジコちゃんさん。観ていたテレビも『日曜討論』など、エンタメから遠い。40歳を過ぎてアイドルとしての活動を決意したのはなぜか。
「ずっと憧れてきた世界というわけではないものの、モーニング娘。の後藤真希さんには当時からすごい似ているとよく言われていて……(笑)。わざわざ『あなたテレビ出てるよね?』と言ってくる人もいました。自分らしく振る舞える場所として、アイドルは私の居場所なんだなと最近はよく思います。家での私とステージの私は、特に使い分けていなくて、素のままでファンの方に触れ合えるのもいいですよね」
いわゆる熟女アイドルとしてのデビューは、周囲にとっても衝撃だったのではないか。
「身内は『好きにしたらいい』というスタンスで、もう諦めたのではないでしょうか(笑)。知り合いは、賛否ありますね。いくつになっても若々しく挑戦することを頑張ってほしいという肯定的な意見もありますし、『恥ずかしいからやめなよ』と忠告をもらったりもします」
◆ファンは「もはや家族のような存在」
年輪を重ねた女性だからこそ出せる味があると語るフジコちゃんさん。その円熟味の正体を、こう考えているという。「私個人は、若い人には出せない包容力が武器だと考えています。アイドルとファンというより、もはや家族のような存在になれるように頑張っています。悪女時代の先輩たちに対しては、ステージのたびに限界を超えてくるのがすごいなと尊敬しています。年齢的なことを言えば、もう50年近く生きているわけですから、それは身体の不調は正直あるんです。若いときに比べて回復も早いとは言えません。けれども、ステージに立てば必ず持っている力以上のパフォーマンスを発揮します。その姿に、感動するんですよね」
フジコちゃんさんは悪女時代について、「人間関係がいい」と言い切る。
「頑張りを認めて、引き立ててくれる心の広い先輩がたくさんいます。人間力があって、『ここが私の居場所だな』と思える空間になっていることを、嬉しく思います。何歳になっても、絆が生まれる場所はあるんだなと感じました」
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やや窮屈だった少女時代に溜め込んだ忍耐によって、歳を重ねてから誰かのために歌って踊るアーティストとして輝けたフジコちゃんさん。”悪女”は単に悪い女ではなく、経験を重ねた魅力のるつぼ。紆余曲折を経た女性たちがたどり着いたステージで舞うからこそ、究極の癒やしが届けられるに違いない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

