「最近、みんなで大家さんのCM見ないな」と思っていたある日、衝撃的なニュースが入ってきました。2025年11月6日、日経新聞は「出資金114億円の返還を求め『みんなで大家さん』出資者1191人が集団訴訟に踏み切る」と報じました。
ホテルや飲食店が入る成田空港近くの土地を食料品店に絞り込んだ事業プランに変更する際の出資者への説明を怠ったことによる、大阪府から一部業務停止の処分を受けたことと、一部で分配金の支払いが遅れていることが訴訟の背景です。一方で「みんなで大家さん」の運営会社は、自社のホームページにて、当該行政処分は事業の評判を著しく毀損する社会的制裁であるため、遺憾の意を表明すると反論しています。
テレビCMと実績があれば安心ではないのか
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世の中には様々な投資商品があります。例えるなら有象無象の世界なのですが、よく信頼に値する商品と喧伝する時、評価を得られる2つの事柄があります。
1つは「テレビCM」です。インターネットが広く拡大した(=テレビを見る人が減少した)今日においても、「テレビでCMを流しています」は効果的です。テレビ局が自社を信頼できると見做した、出演者をアテンドするタレント事務所の審査を通ったというプラスの効果があります。最近はテレビでは無くても、YouTubeや検索サイトにもさまざまな投資商品が表示されるようになりました。
もう1つは「実績」です。利用者がいくら儲かった、どれだけの運用利率を享受したかと喧伝します。最近多くの方を悩ませているSNS上の詐欺広告で「月利20%」と言われれば詐欺やポンジスキーム(新規投資家から集めた資金を既存投資家に支払う方法)の可能性が高いですが、実現しそうかな?という利率であれば信じる人も多いでしょう。
運営会社が否定していることも含め、記事執筆時(2025年11月12日現在)、この問題の結論は解りません。行政指導が実行されたから「クロ」と決めるのは早計であり、メディアが取ってはいけないスタンスです。それでも約束された不払いがある時点で信頼の毀損です。このような事例を防ぐために、我々はどうすればいいのでしょうか。
匿名組合契約と現地視察の難易度
今回の事例が報道されて、「当事者にならずに済んだかもしれない点」として以下の2つが指摘されています。1つ目は「匿名組合契約」です。
匿名組合契約は出資金の範囲内で損害が抑えられる、登記簿に載らないなどのメリットがあります。一方で投資する不動産物件は事業者(今回の場合はみんなで大家さんの運営会社)のため、不動産の所有権がありません。
不動産の所有権が無ければ、出資者は事業の執行に介入する権利が無く、かつ事業者の資金使途を厳格にチェックする権利がありません。今回行政処分に至ったのは当該案件の方針転換であり、あくまで事業者の権限として出資者に報告しなかった可能性も否定できないものです。
もう1つ、SNSなどを見ると、「(今回のような)不動産クラウドファンディングに投資するのなら、現地調査は欠かせない」と書かれていますが、これも限界のある話です。不動産クラウドファンディングは事業者の説明で投資判断をするものであり、現地を見て確かめる種類の投資ではありません。ただ今後は、同様の話が「事実では無い可能性」もあるため、今後予定している投資物件が居住地に近いなどの条件であれば、現地訪問をすることでリスクを削減できることになります(それでも更地を見て実現可能性を見定めるのは困難ですが)。
また、資金を集めた後で建設工事に着手する不動産クラウドファンディングにおいて、分配金の遅れは現実的にあり得ます。そのあたりの利用者リテラシーの確保も今後の大きな課題です。