
予期せぬ突然の別れが訪れたとき、目の前の現実や将来への不安にどう向き合えばよいか、多くの人が戸惑うものです。特に一家の大黒柱を失った直後は、哀しみの余韻に浸る間もなく、現実的な手続きや生活設計を迫られる状況に立たされます。ある女性のケースをみていきましょう。
月収55万円の生活が急転……夫の死後に判明した「驚愕の事実」
「まさか、夫があんなに急にいなくなるなんて、夢にも思っていませんでした。それ以上に、これからの生活をどうすればいいのかという不安で、悲しむ暇なんてありませんでした」
関東近郊のマンションに暮らす佐藤由美さん(45歳・仮名)。由美さんの夫、健二さん(48歳・仮名)は、中堅メーカーに勤めるサラリーマンでした。月収は手取りで約55万円。由美さんもパート勤務をしており、高校生と中学生の息子がいる4人家族の生活は、何不自由のないものだったといいます。
しかし、その平穏は突然崩れ去ります。ある朝、健二さんが自宅の洗面所で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。死因は急性心不全でした。
葬儀や親族への連絡など、怒涛のような数日間が過ぎ、ふと現実に戻った由美さんを襲ったのは「今後のお金」に対する強烈な不安でした。健二さんの銀行口座は、死亡の連絡とともに凍結されています。当面の生活費や、これからかかる息子の大学進学費用をどう工面すればいいのか。由美さんは、健二さんが生前、「俺には万が一の時のために、しっかり保険をかけてあるから安心しろ」と口にしていたことを思い出しました。
「夫の言葉を信じて、書斎の机やクローゼット、あらゆる場所を探しました。でも、出てこないんです。保険証券が……」
見つかったのは、数冊の通帳と、住宅ローンの返済予定表、そして未開封のクレジットカードの明細書だけ。生命保険会社からの郵便物や、証券らしきものはどこにもありませんでした。健二さんのスマートフォンを開こうにも、パスワードが分からずロックも解除できません。通帳の記帳内容を見ても、保険料が引き落とされている形跡が見当たらないのです。
「もしかしたら、ネット保険だったのかもしれません。でも、スマホが開かないので確認のしようがなくて。あるいは、昔は入っていたけれど、家計の見直しで解約してしまっていたのか……。夫は何事も『任せておけ』と言うタイプだったので……」
結局、保険金の手がかりは掴めないまま、時間だけが過ぎているといいます。
妻の4割が「保険証券の場所」を知らない……「サイレント保険」のリスク
夫婦間で保険の情報が共有されておらず、いざという時に請求できないリスクを抱えているケースは少なくありません。株式会社モニクルフィナンシャルは、こうした「加入していても相手は知らない保険」のことを「サイレント保険」と名付け、警鐘を鳴らしています。
同社が2025年11月に公表した『夫婦の生命保険についての意識調査』によると、配偶者が加入している死亡保険について、夫の「保険証券の保管場所」を「詳しく知っている」と回答した女性は58.0%にとどまりました。つまり、残りの約42.0%の妻は、夫に万が一のことが起きた際、請求に必要な証券の場所を正確に把握していないのです。
また、男性の8割以上が自身の保険内容を配偶者に「伝えている」と回答している一方で、受け手側である妻の半数以上(53.4%)は、受け取れる保険金の金額を「覚えていない・まったく知らない」と回答しています。「伝えたつもり」になっていても、肝心な時に必要な情報(証券の場所や金額)は、驚くほど共有されていないのが現実です。
なぜ、これほどまでに夫婦間の情報共有は進まないのでしょうか。同調査によれば、保険について話し合わない理由として「死や病気など、縁起の悪い話題だから」という回答はごく少数派でした。最も多かった理由は、男女ともに「話すきっかけがないから」(男性24.4%、女性28.1%)というものです。
タブー視しているわけではなく、単に「きっかけ」がないだけで、残された家族が路頭に迷うリスクを放置してしまっているのです。佐藤さんのように、悲しみのなかで書類探しに奔走することがないよう、「保険証券の場所」だけでも共有するきっかけを作ることが、家族を守る第一歩となります。
[参考資料]
株式会社モニクルフィナンシャル『【11月22日「いい夫婦の日」を前に意識調査】加入していても相手は知らない?夫婦間に「サイレント保険」が存在する可能性も』
