SNSを媒介したロマンス詐欺や闇バイトの募集などが増加する中、国際ロマンス詐欺や投資詐欺などの問題に取り組むNPO法人「CHARMS(チャーム)」(新川てるえ代表)は、SNS型犯罪の原因になっているとして「アカウントの不正売買禁止」を求めた署名を集め、10月29日に高市早苗首相宛に要望書を提出。内閣官房の請願担当者に手渡した。
警察庁からサイバー防犯ボランティアの委託を受けて活動するCHARMSのメンバーは「SNS上で『#薬物売買』と検索をするだけでも、不正に売買されたと思われるアカウントが出てくる。国にはプラットフォームの自主規制を促し、表現の自由に抵触しない範囲で法規制をしてほしい」と求めた。(ライター・渋井哲也)
不正売買アカウントの“共通点”
「ボランティア活動で、通報して消されているはずなのに、なぜ不正売買のアカウントが尽きないのか。それが素朴な疑問だった。調べていくと、アカウントに一定の共通点が見えてきた」
そう語るのは、CHARMSのメンバーであるroseさん(仮名/男性)。roseさんは筆者の前でSNSを検索すると、不正に売買したと思われるアカウントを見せてくれた。
「断定はできないが、不正売買されたと考えられるアカウントの共通点で、見分け方のひとつは、初期段階では外国の言語で投稿され、フォローも海外ユーザーが中心ということだ。
売買が成立すると、突然日本語で投稿されるようになり、薬物取引など国内の犯罪に利用されている。私の肌感では、6〜7割は薬物の取引に使用されている。主には大麻だが、覚醒剤もある」(roseさん)
不正に売買されたアカウントは、薬物取引のほか、国際ロマンス詐欺、投資詐欺など犯罪の「温床」となっている。
違法情報95%が“海外発信”
こうしたアカウントでの薬物取引などを発見した場合、roseさんは「インターネット上の違法有害情報」として、インターネット・ホットラインセンター(IHC)に通報。通報を受けたIHCが、警察等関係機関へ情報提供、あるいはサイト管理者に削除依頼などを行う。
「インターネット上の違法有害情報」の通報件数ピークは2022年で58万4733件、ついで24年の54万6556件だ。しかし2025年はすでに公表されている上半期だけで28万2609件の通報があり、過去5年では最多ペースだった。
また、今年の上半期に通報された情報で「違法」と判断された4万4973件の情報のうち、95%に上る4万2618件は、国外(※)から発信されていた。
※プロバイダ等の所在地が不明または国外に所在し、かつ国外に所在するサーバに蔵置されているもの
闇バイトなど「犯罪実行者の募集」が確認された5188件の情報では、国内発信のものは6件だけだった。
roseさんが指摘するように、海外で作成されたアカウントが不正に売買され、日本向けに有害情報を投稿している例が多いのだろう。
「SNSは危険」94%
海外では、今年4月、ドイツの研究グループが、アカウントの不正売買が犯罪の温床になっていることを指摘し、国際社会が協調して規制を行うよう提言した論文を発表。
一方で、日本ではアカウントの不正売買に関する公的な調査・研究はほぼ行われていないことから、CHARMSはアンケートを実施した(回答者1128人、今年9月28日〜10月12日)。
結果は、94%が「SNSは危険」と回答。さらに、97.7%が「アカウント売買を法律で禁止すべき」と考えていた。
「SNSを通じて、自分か家族が被害を経験した」と回答したのは13.4%(151件)。7~8人に1人の割合で被害に直面していた。このうち「実害があった」という回答者も63.6%(96件)に上った。
もっとも多い被害は「SNS型投資詐欺」で24.4%(54件)、ついで「フィッシング詐欺」23.5%(52件)、「ロマンス詐欺」14.5%(32件)、「特殊詐欺」14.0%(31件)、「なりすましアカウントによる被害」11.8%(26件)などとなっている。
犯罪に利用されたSNSは「LINE」が25.9%(57件)、「Instagram」19.5%(43件)、X(旧Twitter)16.8%(37件)、「Facebook」15.9%(35件)。多くの日本人が利用するSNSで、犯罪の誘因が行われていることがわかる。
また、roseさんは、アンケートでは「被害を相談できない人」の存在も目立ったと話す。
「被害に遭った人のうち約3割の人が相談をできていなかった。警察に通報しても反応がなかったという意見もあった。泣き寝入りも多い」
売買規制「各国と協力しながら、対策・規制を行って」
CHARMSでは、昨年11月からSNSアカウントの不正売買の禁止を求めた署名を開始。提出(今年10月29日)までに、2万5000筆以上が集まった。
また、昨年11月には、自民党の「治安・テロ・サイバー犯罪調査会」(会長、高市早苗衆議院議員)に、アカウント売買についての法規制を求める陳述書も提出した。
同調査会は、今年3月、石破茂首相(当時)に「組織的な詐欺から国民の財産を守るための対策に関する緊急提言」を申し入れた。この提言の中には、SNSや通信アプリの悪用に関する項目が含まれていた。
roseさんはこう述べる。
「現行法では不正ログインに関しては法規制があり、銀行口座の売買・譲渡も処罰される。SNSアカウントの売買規制も行うべきだ。
『表現の自由』が問題になるかもしれないが、私たちが問題にしているのは、あくまで売買。正当な理由でのアカウントの“引き継ぎ”などは規制対象にしないなど『表現の自由』を守りながら規制を行う方法はあるはず。
売買の拠点も海外にあることが多く、そうなると日本が手出しできないこともあるだろう。難しいとは思うが、被害者が出ている問題。国には各国と協力しながら、対策・規制を行ってほしい」
■渋井哲也
栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件。教育問題など。

